考察『光る君へ』43話「そもそも、左大臣殿に民の顔なぞ見えておられるのか?」「賢人右府」実資(秋山竜次)の面目躍如、きっとすごい勢いで日記を書く
うらやましいくらいに
為時(岸谷五朗)が越後から戻ってきた。おじじ様、おかえりなさーい! 越後守おつかれさまでした! とねぎらわれる間もなく、可愛い孫娘・賢子(南沙良)と若い武者・双寿丸(伊藤健太郎)の親しげな様子を見ることになり……その困惑お察しいたします。 為時「お前はこれでいいのか」 まひろ「昔は考えられなかったことも、あのふたりは軽々と乗り越えております。うらやましいくらいに」 自分は直秀とも三郎とも越えられなかった身分の差。うらやましいくらいにという言葉にまひろの思いがこめられる。 たった20年でも価値観は移り変わる。それは現代の私たちも日々感じることではないだろうか。
宋人の名医とは?
目に傷を負った隆家(竜星涼)を実資が見舞った。なかなか傷が治らないと訴える隆家に、実資は「大宰府に恵清という宋人で、目の病を治す腕のよい薬師がおるそうだ」「大宰権帥に空きがあるので赴任し治療してきてはどうか」と勧める。 隆家がいよいよ大宰府へ!! そして、宋人の名医とは……越前で出会った彼が再登場か? と身を乗り出す。周明(松下洸平)は対馬出身だと言っていた。この展開でまた現れるのでなければ、ドラマオリジナルの登場人物の出身地を対馬とする理由がない(ここまで語っておいて最後まで松下洸平が出てこなかったらどうしよう)。 隆家の願いは聞き届けられ、先に太宰権帥を望んでいた行成は当然抗議した。それはそれとして、 行成「道長様は、私をなんだとお思いでございますか!?」 道長「行成は……俺のそばにいろ。そういうことだ」 どういうこと!? 道長という男は、自分のことを間違いなく愛してくれる存在(倫子といい、明子(瀧内公美)といい行成といい)にはとても残酷な態度を取るのだ……まひろ以外。もう一回まひろに振られておいでよと、ちょっと思う。 大宰府に赴く前に、隆家は脩子(ながこ/海津雪乃)内親王と清少納言(ファーストサマーウイカ)に暇乞いをした。清少納言からは、まるで憑き物が落ちたように刺々しい空気が消えている。穏やかな暮らしを得た敦康親王を見て、彼女自身の怒りも恨みも洗い流されたのだろうか。よかった……と安心しつつも、この清少納言の変化はやや唐突で、もしかしたらいくつかの場面がカットされているのではないかと想像する。昔のように50話まで放送されていれば、このあたりも丁寧に描かれたのかもしれない。 そして隆家の大宰府行きは、賢子にも影響を及ぼした。双寿丸が仕える平為賢(神尾佑)が隆家に同行するため……突然の別れだ。ここで、双寿丸につくづく感心した。 双寿丸「お前は都でよい婿を取って幸せに暮らせ」「うまい飯がゆっくりと食えて、妹みたいなお前がいて、楽しかった」 俺以外の男と幸せに暮らせって! 妹みたいなお前、つまり女としては扱っていないって! なんと見事な振り方だろうか。相手のことを思うならば、ここまできっぱりと綺麗に切らねばならない。若いながらも素晴らしい。どこぞの左大臣に見せてやりたいくらいだ。 双寿丸に拍手しつつも、ああ、姫様……と黙って悲しそうに佇む乙丸(矢部太郎)に泣く。 賢子はまひろに問う……。 賢子「母上は振られたことある?」 まひろ「あるわよ」 道長に呼び出されて、妾でもいいと駆けつけたら「左大臣家の一の姫(倫子)に婿入りすることになった」と告げられた夜(12話/)のことだろうか。あの庚申待の夜は、振られて帰ったまひろを惟規(高杉真宙)とさわ(野村麻純)が笑顔で迎えてくれたのだった。ふたりとも、もういない──でも、あの温かい思い出が、娘の失恋を「私の胸で泣きなさいっ」と明るく受け止める母へとまひろを育ててくれた。あの時も今も、ありがとう。惟規、さわちゃん。 双寿丸の送別会で福丸(勢登健雄)が、 「ふたつにひさしき鹿島立ち 弥栄 弥栄」 と歌う。 鹿島立ちとは、防人(さきもり/九州沿岸部を警護する武人)が九州に旅立つ前に、鹿島神宮に道中の無事を祈ったことから、旅立ちを指す言葉だ。為時ファミリーが、家族のように双寿丸を送り出す。賢子の切ない初恋の終わりが、暗いものとならずよかった……生きろ、双寿丸。武運を祈る。 次回予告。ついに、その瞬間が……三人の后が土御門殿に集う! 全国の皆さん、その瞬間にご唱和くださいという予告の編集。 「この世をば我が世とぞ思ふ……」 44話が楽しみですね。最終回は12月15日放送、残りあと5話! ******************* NHK大河ドラマ『光る君へ』 脚本:大石静 制作統括:内田ゆき、松園武大 演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろう 出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、見上愛、塩野瑛久、木村達成、南沙良、岸谷五朗 他 プロデューサー:大越大士 音楽:冬野ユミ 語り:伊東敏恵アナウンサー *このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。 *******************
【関連記事】
- 考察『光る君へ』22話 周明(松下洸平)登場!大陸の波打ち寄せる越前での運命的な出会いからの衝撃「日本語喋れるんかい!!」
- 考察『光る君へ』23話 宣孝(佐々木蔵之介)が越前に来た!ウニを匙で割ってご馳走する可愛いまひろ(吉高由里子)に「わしの妻になれ」ドンドコドン!
- 考察『光る君へ』24話 まひろ(吉高由里子)に忘れえぬ人がいても「まるごと引き受ける」宣孝(佐々木蔵之介)の大人の余裕と包容力!
- 考察『光る君へ』25話 まひろ(吉高由里子)を娶ったとわざわざ報告する宣孝(佐々木蔵之介)、動揺を隠せない道長(柄本佑)
- 考察『光る君へ』31話 一条帝(塩野瑛久)の心を射貫くのだ! まひろ(吉高由里子)の頭上から物語が美しく降り注ぐ歴史的瞬間。しかし道長(柄本佑)は困惑気味