サウジアラビアに誕生した「チームラボボーダレス ジッダ」をレポート。世界遺産の街に常設される巨大なミュージアムで彷徨い、遊び、新たな感覚を開く
サウジアラビア・ジッダで人々の生を豊かにし、新たな観光拠点へ
プレビューには周辺国からもプレスが集まり、大変な賑わいを見せていた。チームラボボーダレス ジッダはサウジアラビア王国文化省との共同イニシアチブで、チームラボがこのような常設ミュージアムを国家機関とともに作ることは今回が初めてだという。 サウジアラビアは2016年、皇太子であり首相でもあるムハンマド・ビン・サルマーンによる指揮のもと、「サウジ・ビジョン2030」という政府プログラムを立ち上げ、経済的、社会的、文化的に多様化を増やすという目標を掲げている。チームラボボーダレス ジッダは、市民、住民、観光客の日常生活を豊かにする「クオリティ・オブ・ライフ・プログラム」の取り組みの一環として、また「サウジ・ビジョン2030」の目標のひとつである芸術文化への貢献を強化することを目的とした、文化・芸術のインフラの開発・育成の一環として設立された。 経済において石油依存からの脱却を目指す同国にとって、観光は現在、大きな力を入れている分野でもある。以前はなかなか日本からアクセスしづらいイメージがあったが、2019年には日本を含む49ヶ国に対して観光ビザが解禁された。「ビジョン2030」の基本計画には「巡礼者数の拡大、および観光産業とのタイアップ」があり、メッカ巡礼でサウジアラビアを訪れるムスリムに、聖地以外の都市への周遊を促す政策が進められている(*)。またムスリムに限らず、広く外国人観光客に向けてサウジアラビアの「新たな顔」を見てほしいとの意図のもと観光産業の拡充が図られており、実際に訪れてみると街全体に外国人観光客への歓迎ムードが感じられた。 今回のチームラボボーダレス ジッダのオープンは、地元の人々に新たな体験を提供するミュージアムとして、また国内外から訪れる人々に向けた新たな観光スポットとして、大きな注目を集めるはずだ。ここでの経験が、人々の生活に豊かさをもたらし、異文化への相互理解や共存の感覚を深めるものになることを願う。 *──高尾賢一郎『サウジアラビア―「イスラーム世界の盟主」の正体』中公新書、中央公論新社、2021年、p.164 Kindle版
福島夏子(編集部)