サウジアラビアに誕生した「チームラボボーダレス ジッダ」をレポート。世界遺産の街に常設される巨大なミュージアムで彷徨い、遊び、新たな感覚を開く
中東初の「チームラボボーダレス」が世界文化遺産の街に
世界各地で大型プロジェクトの実施やミュージアムを建設しているアートコレクティブ・チームのチームラボが、中東初となる常設のミュージアム「チームラボボーダレス ジッダ」を6月10日にオープンさせた。 場所はサウジアラビアのジッダ(ジェッダとも)。ユネスコ世界文化遺産ジッダ歴史地区を見渡すアルバイン・ラグーンのほとりに、2階建てのミュージアムが新設され、延床面積は約1万平方メートルに及ぶ。今年2月に東京の麻布台ヒルズ内にオープンさせた「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」も相当広いが7000平方メートルなので、こちらはさらに広大なミュージアムとなる。 館内にはチームラボによるデジタルテクノロジーを用いた80以上の作品群を展示。没入的かつインタラクティブな展示で、境界のないアート群による「地図のないミュージアム」がコンセプトだ。本館はサウジアラビア王国文化省とチームラボによる共同イニシアチブと、ATHR Galleryのサポートによって常設される。 ジッダはサウジアラビアの首都リヤドに次ぐ大都市であり、アラビア半島の西側、紅海に面する港町だ。イスラームの最大の聖地メッカと第2の聖地メディナへの玄関口として、同国の建国以前から世界中の人々を受け入れてきた。古くからの建物が残る歴史地区は2014年にユネスコによって世界文化遺産に登録されている。 イスラーム世界における重要な場所であり、いっぽうで現在は同国の経済や金融の中心地として、世界中から人々が集まるコスモポリタンな性格を持つジッダ。こうしたほかに類を見ない歴史と文化を誇る場所に、最先端のデジタルテクノロジーを駆使したチームラボのミュージアムが誕生するというのが面白い。
境界のない世界
チームラボボーダレス ジッダは、「Borderless World」「Light Sculpture」「運動の森」「ランプの森」「学ぶ!未来の遊園地」「EN TEA HOUSE」「スケッチファクトリー」で構成されている。 エントランスから暗い空間を抜けると、まず目の前に広がるのが「Borderless World」だ。花々が咲き誇り、やがて散ってはほかの花がまた咲くというサイクルを繰り返す《Memory of Waves: Flowing Beyond Borders》、豊かな水の流れや自然界のイメージが溢れる《増殖する無量の生命 - A Whole Year per Year》などが広大な展示空間に展開される。 “ボーダレス”な作品たちはひと所にとどまらず、様々な展示空間へと移動していくのが大きな特徴。たとえば《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス:境界を越えて飛ぶ》に登場するカラスや蝶をはじめとする動物や、波のような自然の要素、そして書など、様々な存在がある展示室に現れたかと思うと、また別の展示室にも移ってきたりする。空間的にも時間的にも流動的でひとつながり。私たちの意識や行動も、作品や周囲の人に影響してひとつの連続体となる。そんな「Borderless World=境界のない世界」は、チームラボの哲学や世界観を端的に表した言葉だろう。人と人とが関係しあい、周囲の環境と影響しあいながら存在するように、ここでは作品がひと所に止まるのではなく絶えず動き、人と関係を持ち、連続性のなかでほかの作品ともコミュニケーションを取る。 《花と共に生きる動物たち》は咲いては枯れる花々でできた動物たちで、人々が触れると花が散っていく。そして花々が散りすぎると、その動物は死んで消えていく。こうした誕生と死滅が絶え間なく繰り返され、人や作品同士の影響によっても変化が起きるので、館内では一度として同じ景色を見ることができない。「瞬間」と「永続」のふたつがメビウスの輪のようにつながった展示であり鑑賞体験だ。 またジッダならではの新作として、2階に上がる階段には《Persistence of Life in the Sandfall》が展示されている。階段の壁面や吹き抜け部分に、砂が流れ落ち、巨大なバラが咲き誇る美しくも壮大な作品だ。砂漠を擁するサウジアラビアらしいモチーフであり、岩が砕かれ砂となるまでの長大な時間や、開花から枯れるまでの花の命の短さなど、複層的な時間のイメージも感じられる。