阪神・西岡、涙のサヨナラ打の裏に打法変更の工夫
涙のヒーローインタビューだった。今季の甲子園開幕戦(8日)で、9回に劇的なサヨナラ打を放った西岡剛が、突然、お立ち台で言葉に詰まった。 インタビュアーに4万を超える観客数だったことを告げられると、「この2年怪我をして……」。そこまで言うと、絶句した。 「この場に立てたことを嬉しいと思いますし……ええ……」 言葉が続かず目元に涙があふれた。 「今年ね。なんとか阪神のために一生懸命やりたいと思いますので暖かく見守って欲しいと思います」 1点を追う9回。 一死から福留の詰まった打球に、広島のレフトとショートがおいつかずヒットにすると、ゴメスがセンター前。鳥谷は、ボテボテの内野ゴロに打ち取られたが、処理した中崎がほんの少しボールを持ち直したことで、一塁がクロスプレーとなり、送球がそれた。その間、荒木が好走塁で同点のホームを踏む。鳥谷がラインの内側を走ったと新井のアピール。緒方監督も抗議に出たが判定は覆らず、一死一、三塁と続くサヨナラ機に、打席に向かう西岡に金本監督が話しかけた。 「差し込まれ気味だから、タイミングを早く取っていけ!おまえが決めろ。初球から、どんどん行け!」 だが、初球はストレートにタイミングが合わずに空振り。2球目、インサイトのストレートを見逃して、2球でツーストライクと追い込まれた。 金本監督は、差し込まれていたタイミングを見て「人の話を聞いとんのか」と思ったという。 ここで西岡は打法を変える。 バットをワングリップ短く持ち替え、右足を上げることのないノーステップ打法。 ひとつボールを見送って、カウント1-2から141キロのストレートをノーステップでコンパクトにスイングをまとめて振りきった打球は、綺麗な放物線を描き右中間フェンスにワンバウンド、ツーバウンド、スリーバウンドでぶつかった。水やジュースが混じった祝福のシャワーを浴びてビショビショになった西岡は、金本監督と力強く抱き合うと、監督は左手でヒーローの頭を叩いた。 金本監督も、その打席での西岡の工夫を見逃さなかった。 「最後はノーステップでね、タイミングが合わないなりに経験を活かしたね。さすがと言えばさすが。外野に飛んだ時点で勝ったと思った(犠飛でもサヨナラ)。(甲子園開幕での勝利に)ホッとした。甲子園のスタンドを見て、嬉しく思いました」 追い込まれてから、打撃スタイルを変える打法で成功しているのが、西岡がメジャー移籍前に在籍していたロッテの角中、昨季からブレイクした清田の2人。とっさに西岡の頭を古巣で活躍する打者のテクニックがよぎったのか。それとも金本監督の西岡に賭ける信頼が「なんとしてもの」の執念を呼び起こしたのか。