ウォーレン・バフェットが2024年に行なった「2つの大きな方針転換」
史上もっとも偉大な投資家と言われるウォーレン・バフェット。その名声は、長年にわたる、粘り強く揺るぎない投資の上に築かれてきました。 バフェットは自身の主義を貫き、トレンドや熱狂の誘惑に屈することなく、長期的な価値を大切にすることで知られています。 ある企業に対して何らかの決断を下したら、それを何十年にもわたって変えずにいるということも、決して珍しくありません。 その一方で、バフェットに関しては、ずっとシンプルで見落とされがちな資質があります。それは、自身の考えを躊躇せず変えるところです。
リーダーが決断を変える難しさ
先ほど「シンプル」という言葉を使いましたが、「考えを変えるのは簡単だ」という意味ではありません。 多くの人、特にリーダーは、考えを変えることは弱さのあらわれだと考えています。まるで、決断を変えれば、自分が間違っていたことを認めることになってしまう、と思っているかのようです。 これまでの自身の考えに反する新しい情報を受け入れることが難しいのは、リーダーもほかの人たちと同様です。 考えを変えるためには、謙虚さが必要。目の前にあるプライドよりも、遠くにある成功を優先する姿勢が要求されます。 自分のエゴを脇に置いて、いま手元にある情報で最善の決断を下さなければならないのです。これはまた、リーダーにしかできない、もっとも重要な仕事の1つでもあります。
この1年でバフェットが何を変えたか?
こうした姿勢について、バフェットはこの1年のあいだに、好例を2つ示しました。 Apple株を大量に売却 1つめは数カ月前のことです。バフェットは2024年8月、自身が率いるバークシャー・ハサウェイが所有するApple株を大量売却したことを明らかにしました。 同社は2016年にApple株を買いはじめ、同年に10億ドル分を取得。1年後には、その額が270億ドルを超えました。バークシャー・ハサウェイが所有するApple株の総額は、2024年には1600億ドル(約23.7兆円)以上に達していたのです。 その半分を同社が売却した理由は、まだ明らかにされていません。しかしおそらくは、Appleへの投資による巨額の売却益を受け取ることに加えて、税金対策という事情が絡んでいたと思われます。 バフェットは昔から、Appleのティム・クック最高経営責任者(CEO)のリーダーとしての手腕を高く評価しており、Apple株を永久に所有したいと述べてきました。 私の考えでは、そうした姿勢が変わったわけではなく、ほかの事情に変化が生じたのでしょう。いずれにせよバフェットは、情報をもとに最善の決断を下したわけです。 ビル&メリンダ・ゲイツ財団への寄付の打ち切り 2つめは、2024年6月28日付けで公開された「ウォール・ストリート・ジャーナル」のインタビューでのことです。 バフェットはこの時、自身の遺産の使い道については子どもたちの手に委ねると述べました。また、自分の死後にはビル&メリンダ・ゲイツ財団への寄付を打ち切ることも明らかにしました。 以前から、自身の富の大部分を同財団に寄付すると公言してきたバフェットですが、本人の言葉によると、ゲイツ財団が「私の死後に寄付金を受け取ることはない」そうです。これは大きな変化です。 バフェットは、2006年にゲイツ財団に宛てた手紙のなかで、「私の生涯を通じて、バークシャー・ハサウェイのクラスB株を毎年贈呈することを約束します」と述べました。 そして、「近々、遺言状も書き直し、残りの指定株を分配するなどして、私の死後もこの約束が果たされ続けるようにするつもりです」と続けていました。 バフェットが心変わりした原因は定かではありません。ただし、変化が起きたのは、ゲイツ夫妻が2021年5月に離婚を発表したあとのことです。 バフェットは、2021年6月にはゲイツ財団の理事も辞任しています。もしかすると、同財団の運営チームに変化があったことと何か関係があるのかもしれません(訳注:ゲイツの元妻メリンダ氏は2024年5月、同財団の共同議長を退任した)。 あるいは、自分の子どもたちに対する見方が変わったということも関係しているかもしれません。 バフェットは投資家たちに向けて、「2006年時点では、私の子どもたちはこの大きな責任を引き受けるうえで十分な準備ができていませんでした。けれども、いまは違います」と語りました。 ここで重要なのは、「けれども、いまは違います」という言葉です。 2006年と比べると、さまざまな変化が起きたようです。そのなかでも顕著な変化の1つは、自分の子どもたちに、多額の寄付の取り扱いを任せられるという信頼感が以前と変化したことであるように見えます。 それは、史上もっとも高い公共性と強い影響力を持つ慈善活動の1つについて、バフェットが心変わりするのに十分な理由だったのでしょう。 いずれにせよ、この教訓はシンプルです。 優れたリーダーは、新しい情報や、より良い情報に遭遇したときに考えを改めるのです。 確かに、計画を忠実に守るべきときもあります。事態が悪化しているという理由で方針を転換したくなっても、その誘惑に打ち勝たなければならないときもあります。 しかし、状況が変化したときにリーダーがやるべきもっとも重要な仕事は、目の前にある情報を正しく評価し、可能なかぎり最善の決断を下すこと。 そのためには、自身の考えを変えなければならないこともあるのです。 Source: The Wall Street Journal Originally published by Inc. [原文] Copyright © 2024 Mansueto Ventures LLC.
ガリレオ