「大事なことはすべて江神と火村に教わった」気鋭のミステリ作家3人が有栖川有栖を語る
トリビュートの依頼
青崎 おふたりは今回のオファーを受けた時ってどう思いました? 織守 どんなに難しくてどんなに忙しくても断れない仕事というのがある、と思いました(笑)。もちろんうれしいんですけど、「えっ、できるのか自分?」という不安もあって。自分の好きな作品の二次創作をやる、しかも公式で……。正直、書ける自信はまったくなかったです。でも、もしオファーがなかったとしたら、「そうか、私には声がかからなかったか」と寂しく思ったはずだし。 今村 火村を書くというのはすぐ決まったんですか? 織守 最初「火村シリーズはやめよう、好きすぎるから」と思ってたんです。担当さんにも「火村を書く人はいっぱいいるだろうから、私は濱地健三郎かな。ホラー作家として期待されてる気がするし」と言いました。そしたら担当さんが、「一番好きなのは?」と聞くんです。「……ひ、火村シリーズです」と答えると、「織守さん、好きなもの書きましょう。自分に正直になりましょう。それを読者も読みたいはずです」って。 青崎 いい編集者だ……(笑)。 織守 今村さんはどうでした? 今村 僕は普段から本格ミステリを主戦場にしているので、恐れ多いという気持ちはありつつも、やらなきゃいけないと。僕がお断りしても、結局は本格ミステリ畑の他の作家さんにその仕事が行くわけで、ここは受けなきゃいけないと覚悟を決めました。ましてや尊敬している有栖川さんのトリビュートだから、今の自分をぶつけるしかないと。 織守 落ち着いてる。かっこいいな。 今村 いやいや……僕もこの企画に自分の名前がなかったら、きっと織守さんにグチグチ言ったと思いますよ、「なんで僕じゃないんでしょう」って。で、東京創元社出身でもある僕には、江神ものを書くことが期待されているだろうと思ったので、そこも迷いはありませんでした。青崎さんはどうでした? 青崎 僕もおふたりと同じように、これは断ったらもったいないという気持ちがまずあって、即「やります」とお返事したんですけど、その時、直観的に決めたのが、個を出すのはやめて、完コピ二次創作に徹しようと。最初の依頼の時点で「火村シリーズを書きます」とお伝えしたと思います。火村シリーズの一編として本家の短編集に紛れ込んでいても誰にも気づかれないようなところを目指そうと考えていました。