「大事なことはすべて江神と火村に教わった」気鋭のミステリ作家3人が有栖川有栖を語る
織守 今村さんの「型取られた死体は語る」は、アリスとマリアが会話するシーンが印象的です。マリアの考えに対してアリスが返す一言も、すっごくエモくてよかったです。このふたりのやり取りが物語のラストにもつながるわけですけど、ただキャラクターを借りてミステリを書いたというのではなく、今村さんが江神二郎という人物について考え抜いている感じがして感動したんです。 今村 ありがとうございます。 青崎 夕木春央さんの「有栖川有栖嫌いの謎」(別冊文藝春秋2024年5月号)は、「お、こういう切り口でくるか」と、ビックリしましたね。 織守 トリビュートならではの、ずらしてひねった感じの趣向ですね。 今村 一穂さんの「クローズド・クローズ」(オール讀物2024年5月号)は、火村とアリスのああいうやり取りがやっぱり一穂さん、お好きなんだろうなあと。 青崎 二次創作らしい二次創作。すごくいい短編ですよ。 今村 他の方のトリビュート作を読むと、僕らみんな同じ有栖川作品を読んできたはずなのに、他の人の目にはこう映っていたのかって、発見もありました。
みんなで頑張ろう
織守 今回、有栖川さんの短編をずいぶん読み返したんですけど、これは面白いと思って奥付を見たら2001年だったり。その頃からずっと面白くて、今読んでも全然古くないのがすごいなと。 青崎 けっこう時代ごとのトピックが入っているんだけど、古くさく感じませんよね。僕が再読して思ったのは、自分の記憶よりはるかに遊び心のある短編がたくさんあって、有栖川先生自体が楽しんで書いてるんだな、すごく洒落た小説を書く方なんだなと。 織守 まさに同感です。 今村 僕はデビュー8年目に入って、インタビューに来られる方が「学生時代に読んでました」と言ってくれたり、小学生で読んだ子が高校生になっていたりするんですが、有栖川作品は親子三代で楽しんでいる人がいるから、当のご本人はどんな気分なんだろうって想像もつかない。デビュー35年って、実感がわかないというか、遠い数字です。 織守 でも、10年後、20年後に、私たちも後輩にそんなふうに言われたい。 今村 言われたいですね。 青崎 言われたいけど、20年後に出版業界があるかどうかわからない。 今村 そうなんですよ……。 織守 ちょっと待って(笑)、みんなで頑張ろうよ! あおさきゆうご 1991年神奈川県生まれ。2012年『体育館の殺人』で鮎川哲也賞を受賞しデビュー。24年『地雷グリコ』で本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞、山本周五郎賞を受賞。著書に『11文字の檻 青崎有吾短編集成』等。 いまむらまさひろ 1985年長崎県生まれ。2017年『屍人荘の殺人』で鮎川哲也賞を受賞しデビュー。同作で本格ミステリ大賞を受賞。著書に『兇人邸の殺人』『でぃすぺる』等。最新刊は『明智恭介の奔走』。 おりがみきょうや 1980年ロンドン生まれ。2012年『霊感検定』で講談社BOX新人賞Powersを受賞しデビュー。一五年『記憶屋』で日本ホラー小説大賞読者賞、21年『花束は毒』で未来屋小説大賞を受賞。最新刊は『まぼろしの女 蛇目の佐吉 捕り物帖』
青崎 有吾,今村 昌弘,織守 きょうや/オール讀物 2024年7・8月号