アイオワ大接戦で注目 米大統領選の「党員集会」と「予備選挙」って?
アメリカ大統領選挙で民主・共和両党の候補を決める予備選段階が、2月1日(現地時間、以下同じ)の大接戦のアイオワ党員集会で幕を開けました。予備選段階には、この「党員集会」とともに「予備選挙」という制度があります。次の9日のニューハンプシャー州での戦いは予備選挙です。この2つの違いは何でしょうか。そこには、民主的な選挙のあり方をめぐる考え方の違いもあります(上智大学教授・前嶋和弘)。 【写真】<米大統領選>次戦が正念場のトランプ氏、クリントン氏の苦戦は想定内
予備選段階での2つの制度
党員集会(コーカス)と予備選挙(プライマリー)は、いずれも、民主・共和両党それぞれの代議員を選ぶ制度です。その代議員が夏に開かれる自分の政党の全国党大会に出席し、党としての大統領候補を正式に決定します。各州によって、しかも民主・共和両党によっても大きく異なりますが、党員集会は基本的には話し合いで勝者を決め、予備選挙は通常の投票で勝者を決めます。近年、勝者総取り制(ウィナーテイクオール)とともに比例代表制を取り入れることも増えてきましたので、勝者を決めるというよりも「代議員」を割り振る制度が2つある、といえます。
“顔が見える”党員集会
この2つのうちで、より“顔が見える”のが党員集会であるといえばいいでしょうか。私も何度か実際に見たことがありますが、日本人にとって、どの州の党員集会もとても手作り感があり、驚くと思います。 アイオワ州党員集会を例にとって、仕組みを少し説明してみます。共和党の場合、「ストローポール」という投票をします。その部分だけ見れば、通常の選挙に似ているのですが、投票の前に、自分たちが支持する候補がいかに優れているかについて、支持者が入れ替わり立ち代り、約3分間ずつ説明するという恒例のスピーチがあります。このスピーチで共感を呼べば、支援する候補者の票が多くなるのはいうまでもありません。当然、熱が入ります。 一方、民主党の場合はさらに手作り感があります。投票ではなく、支持候補ごとにグループを作り、その数を集計することで勝者を決めます。 支持候補を誰にするのか迷っている参加者に対しての勧誘合戦は毎回の最大の見せ場です。各候補の支援者が必死に説得して、支持者の数を増やしていくのですが、やはり熱意がものを言います。また、各会場の最初の集計で、特定の候補の支持者が15%に満たなかった場合、その候補の支持者は、他候補の支持に回ることになります。この場合のさらなる勧誘合戦で激しく盛り上がります。 このような党員集会が、アイオワ州では両党とも1500~1600以上の場所で開かれるのです。 今回、大接戦だったアイオワ州の民主党党員集会では6つの会場で「同票」という結果になり、最後はコインの表裏で1位を決めるというびっくりするようなことがありました。 これは、数時間続く党員集会の途中で出席者が自宅に帰ったりして、数が合わなかったようなケースです。おそらく先進国で最も厳格な公職選挙法を有する日本から見れば、驚くことも数多いでしょう。候補者陣営からの差し入れとしてサンドイッチなどの軽食が出ることもあります。会場も、通常は学校や公民館が中心なのですが、一般の州民の自宅が会場といったところも、いくつもあります。アイオワ党員集会に限らず、アメリカの全ての選挙運動では、ボランティアを使った戸別訪問は基本戦術です。このゆるく“顔が見える”人間関係の中で、自分たちの支援する候補を選んでいくという民主主義の原点が党員集会にあります。