なぜ大阪桐蔭のセンバツ不敗神話は崩れたのか?
第93回選抜高校野球大会第4日が23日、甲子園球場で行われ、2017、2018年とセンバツ連覇の大阪桐蔭(大阪)が6-8で智弁学園(奈良)に敗れて初戦で姿を消した。12度目のセンバツ出場となった大阪桐蔭の初戦敗退は初。昨秋の近畿大会に続いて智弁学園に連敗を喫したが、プロ注目の150キロダブルエースを擁する“常勝タレント軍団”はなぜ敗れたのか。
2つの誤算と智弁学園の戦略
近年の高校野球界をリードしてきた西谷浩一監督の巨漢が小さく見えた。 「1回に4点取られたことで、守りから攻撃のリズムがつくれず、苦しい展開になった。秋に一度負けたチームと、しかも初戦で当たり、選手たちはしっかり勝ちたいという気持ちでやってくれたが、まだまだ力が及ばないことが分かった。私自身もしっかり導いてやれなかった」 ショックの色は隠せない。 「勝った方が優勝」とも言われた一回戦屈指の好カードで、あまりにあっけなく大阪桐蔭が敗れた。センバツでの連勝は10でストップ。初戦敗退も12度目の出場で初である。 プロに数多くの逸材を輩出し、プロ予備軍を抱える常勝タレント軍団がこんなに早く甲子園を去るのは、事件といってもおおげさではないだろう。 まさかの誤算が2つあった。全国の頂点に立つために用意したプロ注目の左右の最速150キロ台コンビの“ダブルエース”が揃って自滅したことだった。 先発に指名された185センチの大型左腕、松浦慶斗が立ち上がりに苦しむ。先頭にヒットを許し、続く垪和拓海には死球を与えた。無死一、二塁で、ドラフト指名候補である前川右京を警戒しすぎて、ストライクが入らない。無死満塁から山下陽輔にライトへの先制の犠牲フライを許した。 「今までも初回の入りで失点が多くて、その中で絶対に初回を抑えようとして空回りした」
智弁学園に敗れた昨秋の近畿大会でも初回に失点していた。同じ失敗を繰り返してはならないという思いからか、最速150キロを誇るストレートを130キロ台に抑え、コントロールを重視していた。だが、この山下の打席ではギアを入れた。それが逆に力みになりボールが浮いたのである。さらに続く打者を四球で歩かせ、植垣洸に走者一掃のタイムリー二塁打をレフト線に打たれた。138キロのストレート。コンパクトに逆方向を狙っていた植垣にとって甘く浮いたストレートは絶好球に変わっていた。 重たい4点がスコアボードに刻まれた。 「松浦はあまり立ち上がりのいい投手ではない。ゲームをつくろうという意識が強すぎて、自分のペースに持って行けなかった。相手の西村投手はいい投手だし、立ち上がりが良かった。プレッシャーをかけないといけなかったが、1回の4点で気持ちに余裕を持って投げられてしまった」とは、試合後の西谷監督の回想である。 大型左腕がプロで成功する例は意外に少ない。大阪桐蔭から巨人にドラフト1位指名された辻内崇伸や、古くは平安の川口知哉も結果を出せなかった。スカウトの“心得ノート”には「大型左腕の見極めは慎重に」と書かれている。肉体のコントロールが難しいとされているのが、その理由のひとつ。 今年のセンバツ大会1回戦は、地域を分けないフリー抽選という手法が採用されたために偶然にも昨秋の地区大会の再現カードが多かった。ここまでは東海大相模が東海大甲府を、福岡大大濠が大崎を下して、地区大会のリベンジに成功していた。研究と対策の成果である。大阪桐蔭も秋季近畿大会の決勝で智弁学園に3-7で敗れていたが、その流れに乗り、リベンジを果たすのではないか、との声が多かった。 ネット上のSNSなどで「大阪桐蔭の方が強い」「智弁が近畿大会で勝ったのはまぐれ」などの意見が多くみられた。それらの声は、大阪桐蔭には逆にプレッシャーとなった。先発の背番号「1」も重圧で我を失い、ただでさえ、肉体のコントロールが難しい大型左腕を狂わせてしまうことになった。 一方で、それらの声は智弁学園を奮い立たせた。 「まぐれで勝ったと言われたくなかった」とは、山下陽輔主将。 したたかな準備をした。2月23日の抽選会で大阪桐蔭との対戦が決まると、松浦対策を徹底した。打撃練習では、打撃マシンの下に最大50センチまで高さを変えることができる台を入れ、通常135キロに設定していたスピードを145キロにアップ、さらに設置位置も数メートル前に出した。戦前は、「秘策はない」と小坂将商監督はうそぶいていたが、松浦の角度とスピードを攻略するための準備をしてきた。3点タイムリー二塁打を打った植垣にすれば、松浦の130キロ台のストレートは遅く感じたのかもしれない。