なぜ大阪桐蔭のセンバツ不敗神話は崩れたのか?
松浦の自滅を誘った小坂監督の采配タクトも見逃せない。 無死一塁からバントのサインは出さず、死球を呼び込んだカウントでは走者を走らせていた。1点を奪い、さらに一死一、三塁から四球でつないだところも、サインはエンドランだった。積極的な仕掛けと心理戦が、松浦の自滅を呼び込んだとも言える。 西谷監督の言葉通り5回までわずか1安打と智弁学園のエース、西村王雅を打ちあぐんだ。4点差が西村に余裕を与え、裏をかく配球で打ち気を逆手に取られた。 「秋に敗れている相手に2度続けて負けるわけにはいかない、と挑んだが、前半は早く追い付きたい、逆転したいという気持ちが出て自分たちの思うような攻撃ができなかった。相手投手は秋より良くなっていて、狙い球を絞らせない投球をされた」 4番で主将の池田陵真の試合後談話。 すべてが負のスパイルである。 さらなる誤算があった。ダブルエースのひとり、プロ注目の最速154キロ右腕、関戸康介も、甲子園の”魔物”にのまれてしまったのである。 6回二死から中軸がつなぎ、智弁のタイムリーエラーで何とか2点を返したが、5回からリリーフに出た関戸も、また6回に独り相撲を演じた。 先頭打者への四球などで、無死一、二塁とされると、打席に森田空を迎えた。バッテリーは智弁学園のベンチの傾向を読み、強攻策を頭に入れていた。キャッチャーの田近介人は外角球を要求していたが、ボールが真ん中に入った。森田のバスターが決まり、そこに返球ミスも重なって2点タイムリーとなった。さらに関戸は暴投を連発した。この回、3失点で再び5点差に広がり、反撃ムードに水を差した。 「チームを勢いづけようと思い力が入ってしまった。みんなに申し訳ない」と関戸。146キロをマーク。ドラ1候補の片鱗はうかがわせたが、いかんせん、甲子園という大舞台での経験が足りなかった。彼らは昨年、甲子園交流戦を経験しているが無観客だった。その点、智弁学園の主力は1年時からセンバツを経験していた。西谷監督も「昨年は夏の交流試合があったが、うちは甲子園経験のある選手が少なかった」という。 結局、大阪桐蔭の5人の投手陣は、計9四死球で8失点。「守りからリズムをつくる」という西谷監督のゲームプランからは、ほど遠い内容だった。
それでも大阪桐蔭は最後まであきらめず、7回に1点、8回に3点と懸命に追い上げた。しかし、いい当たりのライナーが一塁の正面をつき、2度も併殺でチャンスを潰すなど運にも見放された。 もちろんこのままでは終わらない。 池田主将は出直しを誓った。 「秋にはなかった粘りは出せたが、あとは全然ダメ。夏へ向けて本気の本気で取り組む」 西谷監督も「今日の負けを悔しさだけでなく、夏に生かしたい」と語る。大阪桐蔭の早すぎる春の終わりは、本当のリベンジを果たすための夏への始まりである。