「田舎暮らし」の断片(3)── 「土地」というでっかい画用紙に夢を描く
今、政府が唱える「地方創生」と共に脚光を浴びているのが、いわゆる「田舎暮らし」というライフスタイルだ。内閣府が昨年夏に発表した調査結果によれば、農村や漁村に住みたいと考える都会人は31.6%で、前回調査時の9年前から11ポイント増えている。若者の方がその傾向が強く、20代では38.7%がそうした「田舎暮らし」に魅力を感じているという。 (2)発想の転換が「八ヶ岳山麓で趣味三昧」実現 だが、実際に大勢の若い世代が「田舎暮らし」を実現しているかと言えば、今、40代でそれを経験している僕の実感からすればNOである。いわゆる「団塊の世代」の引退と共に、リタイア後の移住者が急増している実感はあるものの、統計上も地方の高齢化がスピードダウンする気配はない。 現役世代の場合、「夢はあっても金がない」「田舎に行っても生活の手段がない」といったところが現実だと思う。だとすれば、いまさら「夢のような田舎暮らし」を煽っても仕方がない。ここでは実体験を踏まえ、身の回りにある「田舎暮らし」のリアルな断片をいくつか紹介したい。(内村コースケ/フォトジャーナリスト)
八ヶ岳「住まい」と「生活」の達人
前回は長野県茅野市で「田舎暮らし」を始めたばかりの夫婦を紹介したが、昔から高原リゾートとして有名なこの地域には、既に「田舎暮らし」のベテランや達人が多く暮らしている。移住3年目の僕としても、まだまだ先人に教えを請いたい事はたくさんある。そこで今回は、特に「住まい」や「ライフスタイル」の面で新規移住者や移住希望者から頼りにされている、友枝康二郎さん(56歳・移住歴27年)にコンタクトを取った。 友枝さんはその名も『八ヶ岳田舎暮らし 移住のススメ』というブログを運営する「八ヶ岳ライフスタイル・デザインプロデューサー」だ。もともと東京でグラフィックデザイナーとして活動していたが、29歳の時に八ヶ岳の裾野に位置する長野県原村の別荘地に家を建てた。ブログには、美しい自然や豊かな生活の一コマを切り取った写真や、「田舎暮らし」の実用的な情報とアドバイスが掲載されている。その現地発の情報に多くの田舎暮らし予備軍が魅了され、今、人口7500人弱の村に続々と人が呼び込まれている。 現在の友枝さんの主な生業は、そうした人たちに実際に原村の土地を紹介し、自らデザインした八ヶ岳田舎暮らし仕様の家を提供することだ。奥様の圭子さんは自宅近くで雑貨店を営み、幼少時に原村に移った3人のお子さんは、20代になった今は東京にいわば“逆Uターン”している。 「以前は僕も東京に通って仕事をしていたのですが、3.11(東日本大震災)を境に、グラフィックデザイナーとしての仕事がパッタリとなくなってしまいました」。当時は大手レコード店のデザイン顧問など、企業コンサルティングの契約をいくつも抱えていた。しかし、世間の自粛ムードと共に、フリーランスという弱い立場の者から「真っ先に切られた」という。これには同じフリーの僕もうなずかざるを得ない。 「それで、特にやることもないので『こっちの生活はいいですよ』なんてことをブログに日記みたいに綴っていたら、コメント欄に『訪ねてきたい』と書き込んでくれる人がポツポツと現れるようになったんです」。特に震災後の初年は、震災の影響から逃れるために移住を検討しているという人からのコンタクトが、圧倒的に多かったという。