「田舎暮らし」の断片(3)── 「土地」というでっかい画用紙に夢を描く
自宅の「大失敗」から生まれたデザイン住宅
友枝さんがデザインする家は、木のぬくもりやデザイン性と同時に、「暖かさ」や「メンテナンス性の高さ」といった実用面も十分に考慮されている。この土地に実際に長年住んでいる人の提案だからこそ、口コミで多くの人の信頼を得ているのだ。
ところが、実は友枝さん自身は、この“八ヶ岳仕様の家”に住んでいない。それどころか、若いころに建てた自宅のログハウスは、「最悪、大失敗」だったというから面白い。 熊本県生まれの友枝さんは、20歳の時に初めてバイクのツーリングで原村を訪れた。そして、「日本離れしたカナダや北欧のような風景」に「カルチャーショック」を受けたという。以後、何度も通ううちにこの地に家を建てようと考えるようになり、29歳で脱サラをしたのを機に、30年ローンで憧れのログハウスを建てた。
「最初の10年くらいは温かくて良かったんです。ところが、だんだん歪みがひどくなってきて、あちこちに大きな隙間が空いてきた。夏は虫が、冬は冷気がダイレクトに入ってくる。ログハウスというのはもともと年間を通じて乾燥した北欧やカナダの気候に適したもの。高原とはいっても高温多湿な日本には合っていなかったんです」 その失敗に気づいた後、「ここにもう一軒建てるとすれば、どんな家がいいか」と考えるようになった。散歩中に建築中の家を訪ねては大工さんに専門的な事を質問したり、工務店に勤める友人らから情報を集め、理想的な八ヶ岳仕様の家を日々夢想した。それが今、自身が立ち上げた『MORiSH』ブランドの建築デザインに生きている。 「今お勧めしているのは、ガリバリウム鋼板という最新の断熱材です。ベランダがある正面だけはぬくもりや精神性を重視して無垢の板張りにし、目立たない他の3面にこれを使う。真冬でも晴れていれば暖房いらずです」。ほぼメンテナンスフリーなのも、ガリバリウム鋼板のメリットだ。「今40代、50代の人たちが年金生活になった時に、ドーンと修繕費がかかっても困りますよね。長い目でみた経済性も重視すべきポイントです」