喫煙習慣によって歯を失って後悔…禁煙によって歯ぐきは1年で健康を取り戻す/歯学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<39> 動画配信サービスで昔のドラマをたまに見ますが、2000年頃であってもレストランや会社の中で普通にタバコを吸うシーンが多いことに驚きます。生活者の健康を守る立場であるはずの医療者が喫煙しているシーンも珍しくありません。 喫煙描写によって行為が美化され正当化されること、視聴者にタバコを吸おうと思わせるきっかけを提供する可能性が指摘され、世界的に問題視され始めたのがわずか十数年前です。アメリカの大手映画製作会社ディズニーは、2007年7月以降に作る家庭向け映画から喫煙シーンを全面的になくすことを宣言、2010年8月にはCDC(アメリカ疾病予防センター)が、映画の喫煙シーンに関する規制強化を求める報告書を出しています。 タバコが歯周病のリスク因子であることは、多くの研究で明らかです。タバコに含まれる成分の影響で、歯肉血管は収縮し血流障害を起こします。免疫機能も阻害されるために歯周ポケット内で嫌気性菌(歯周病関連菌)が増えても退治できません。喫煙によって歯ぐきは繊維性に肥厚し硬くなります。 歯周病予防の観点からは大変劣悪な環境になるにもかかわらず、歯ぐきがつるつるとした光沢を放つように変化し、頑丈な見た目になるため、悪くなった気配が感じられない点も厄介です。血管収縮によって出血も抑えられているので、重症化するまでわかりにくいのです。歯科医の立場から患者さんにもっとも是正して欲しい習慣は何かというと、間違いなく喫煙であると断言できます。受動喫煙によって近くにいる方の健康を大きく損ねる点も軽視できない問題です。 歯を失って後悔した経験から、禁煙に取り組み健康を取り戻した患者さんは沢山います。タバコをやめて1年後ほどたつと、分厚くなっていた歯ぐきが正常な組織の状態に近づき歯周病の進行を食い止めることができるといわれています。