フィリピン戒厳令1か月超 アジアで新たな拠点構築進める「イスラム国」
アジアでISに忠誠を誓うテロ組織
ISは、2014年6月の「カリフ国」建国宣言以来、世界中に自らの版図を拡大していくことを公言していたため、その勢力伸長の方向を、イスラム教徒が多く居住しISに忠誠を誓う組織が多く存在する地域を選んできました。そしてもう一つの大事な条件は、その地域で独立運動や分離主義者による反政府運動などが活発に行われており、政情が混乱していることが必要でした。 現在、ISに忠誠を誓うかISへの支援を申し出ているイスラム過激派組織は世界に50近くあるといわれていますが、アジアに限定すると、フィリピン5組織、インドネシア3組織、パキスタン3組織、アフガニスタン2組織で、フィリピンを除くといずれもイスラム教徒の国民が多数を占める国となっています。こうした国からISへの参加を目指して数千人の若者たちがシリアとイラクを目指しました。ISの首都ラッカやイラクの最大拠点モスルが陥落寸前まで追い込まれていることから、こうした外国人戦士の一部がシリアやイラクにいられなくなり、続々と母国に帰還し、あるいは新たな拠点を求めて紛争地帯などに移動しているのです。
フィリピン政府と戦うマウテ・グループ
上記のように、フィリピンにはISに忠誠を誓っているグループはいくつかありますが、ISは現在アルカイダと袂を分かっているので、アルカイダ全盛時代にオサマ・ビン・ラディンに忠誠を誓っていた組織とは距離を置いています。しかし、ISの最高指導者アル・バグダディは「イスラム国」建国時に、世界のムスリムに参加を呼び掛けた都合上、忠誠を誓うと言われれば、これを拒むことはできないはずです。今回の戦闘の発端となったのは、フィリピン政府軍によるIS東アジア支部の司令官(エミール)イスニロン・ハピロン捕獲作戦にあったのですが、この人物は、以前はアルカイダから資金、武器、訓練などを提供されていたアブ・サヤフの幹部でした。同じく、インドネシアの「ジェマー・イスラミヤ」(JI)もアルカイダとは密接な関係を維持し、二度にわたってバリ島で爆弾事件を起こし、さらに、ジャカルタの豪州大使館、米国資本のホテルを爆破するなど、アルカイダの方針を踏襲する形で数々のテロ事件を起こしてきました。JIの場合も、本隊から分離したグループであれば、アル・バグダディに忠誠を誓うことで組織に受け入れているようです。 いま政府軍と戦っているIS配下のマウテほかの勢力は、恐らく数百人規模ではないかといわれています。マウテとは、同組織リーダーのマウテ兄弟(兄アブドゥラ・マウテ、弟オマール・マウテ)の名からとったもので、2012年か2013年に設立された地元の組織です。マウテ兄弟は二人とも中東の大学で学んでおり、兄はエジプトの名門アズハル大学を、弟はヨルダンの大学を卒業しています。共にアラビア語を話し、サラフィー主義とジハーディストの思想に精通しているといわれています。