フィリピン戒厳令1か月超 アジアで新たな拠点構築進める「イスラム国」
フィリピンで戒厳令が発せられてから1か月以上が経ちます。過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う組織とフィリピン政府軍の戦闘は今も続いています。いまフィリピンで、そして東南アジアで何が起こっているのでしょうか。元公安調査庁東北公安調査局長で日本大学危機管理学部教授の安部川元伸氏に寄稿してもらいました。 【写真】アジアも「IS vs.アルカイダ」宣伝競争の舞台に イスラム過激派のいま
◇ いまフィリピン南部のミンダナオ島では深刻な事態が発生しています。シリアとイラクで拠点を失いつつあるイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)が新しい拠点を求めてアジアに進出してきているのです。フィリピンのミンダナオ島では古くからイスラム教徒による中央政府からの分離・独立機運が高まっており、現在もイスラム教徒が多く居住する地域で自治権をめぐって政権との交渉が続いています。 ISがフィリピンの政治的混乱に乗じ、イスラム教徒が多く居住し、しかも、ISの最高指導者のアブ・バクル・アル・バグダディ(6月にロシア軍機の爆撃で死亡したとの説がある)に忠誠を誓っているイスラム過激派組織が複数存在しているフィリピンは、ISにとって新たな拠点を作るにはもってこいの場所と言えるでしょう。
ミンダナオ島で起きていること
フィリピンでは、2017年5月下旬から、ISに忠誠を誓っている「マウテ・グループ」及び、シリア、イラクのISの拠点からフィリピン南部に新天地を求めてやってきた国籍の違う外国人戦士たちがフィリピン政府軍と戦っています。ISの戦闘員たちは、ミンダナオのマラウィ市に乗り込み、街を占拠。キリスト教会を破壊し、一般市民を殺害し、人質を取って首を切り落とすなど、シリア、イラクとまったく同じやり方で残虐の限りを尽くしています。 フィリピンのドゥテルテ大統領は、ロシア訪問を途中で切り上げ、帰国前の5月23日にミンダナオ全島に戒厳令を発令しました。 テロや麻薬犯罪などの取締りには常に強硬姿勢で臨んでいる同大統領は、この国の一大事に素早く反応し、マウテ・グループとISの戦闘員に対して空軍機による爆撃、戦闘用ヘリ、大砲等の重火器類を動員して大規模な掃討作戦を実施しました。フィリピンにISの拠点など決してつくらせてはならないとの強い意志がうかがえます。フィリピンではかねてより、北部ルソン島で共産党系の新人民軍などのゲリラ組織が跋扈し、南部ミンダナオ島ほかでは「アブ・サヤフ」「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)などのイスラム過激派グループが中央からの分離・独立を求めて政府軍や警察部隊と激しい戦闘を繰り返してきました。 ここでさらなる治安の脅威が噴出すれば、GDPの1割以上を稼ぎ出している観光収入にも影響が出ることは必至ですし、何よりも政府が目指す治安対策も失敗に終わり、大統領のメンツも丸潰れになってしまいます。今回のフィリピンの状況についてのニュースが多くないのだとしたら、ドゥテルテ大統領としては、この深刻な事態について外国メディアにはあまり詳細を発表したくなかったのだと思われます。 しかし、ISにとっては、フィリピン国内に更なる政情不安をもたらせば、ISがアジアに進出し、新たな拠点を構築するには願ってもない好条件になるのです。