「非情な殺戮マシーン」は過去の話、『ジョーズ』で知られるホホジロザメのプロフィール
生息域と食性
オーストラリアや南アフリカを思い浮かべることが多いが、世界中の温帯および熱帯の沿岸海域に多く出現している。 ホホジロザメが好む生息域は成長するにつれて変わる。幼魚や若いころは沿岸や入り江といった場所にいることが多いが、成魚は通常、沿岸から遠く離れた外洋域に生息している。しかし、アザラシ、あるいはアシカの群れの生息地など餌場がある場合は、体の大きな成魚も海岸沿いに現れる。 体の大きさや年齢にもよるが、ホホジロザメが狙う獲物は、甲殻類や軟体動物、海鳥、ウミガメ、さらにはアシカ、アザラシ、イルカ、一部のクジラといった海洋哺乳類などだ。死んだ獲物も食べる。クジラの大きな死骸も、腐りかけの肉をステーキナイフのような歯で食いちぎる。
繁殖
ホホジロザメの繁殖は比較的ゆっくりしているが、体の大きさを考えれば驚くことではない。例えば、メスは少なくとも30歳になるまでは繁殖を開始すらできないという説もある。 ホホジロザメの母親は2~3年に1度、生きている状態の幼魚を産む。通常、1回に2~17匹を出産する。幼魚の体長は120~180センチメートルほどだ。自力で狩りをして生き残る能力を十分に備えた状態で世界へと泳ぎ出す。5~6歳になるまで、毎年約30センチずつ成長する。
保護
米国ニュージャージー州で起きたホホジロザメ襲撃事件に着想を得て作られた映画『ジョーズ』が元で、ホホジロザメになじみのある人は多いが、現実にはそこまで怖い存在ではない。実際、以前より海で泳ぐ人が増えたにもかかわらず、米フロリダ自然史博物館が運営するデータベース「インターナショナル・シャーク・アタック・ファイル」のデータによると、2022年にサメ全般に襲われて亡くなった人は5人だった。 現在、ホホジロザメは、サメの中ではとてもよく研究されている種だ。この「巨大な捕食者」に関する研究が増えるにつれて、非情な殺戮マシーンというイメージも薄れ始めている。 一方、ホホジロザメは今も沿岸漁業で混獲されることも多く、サメ駆除の対象として意図的に狙われるケースもある。 国際自然保護連合(IUCN)は、ホホジロザメを危急種(vulnerable)に指定し、全体の生息数は減少傾向にあるとしている。ホホジロザメを漁獲対象とすること、あるいは偶然混獲してしまった場合でも捕獲することを違法と定める国や地域もある。米国や地中海沿岸諸国などがそうだ。また、ワシントン条約(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)」)およびボン条約(「移動性野生動物種の保全に関する条約」)でも保護対象となっている。
ナショナル ジオグラフィック 日本版編集部