“縦目のベンツ” 初代コンパクトシリーズのメルセデス・ベンツW114/115(1968~1976年)
果たして触れてみると、親しみやすさが設計の目的に置かれていることが明白に感じ取れる。何故なら、筆者が1972年にウエスタン自動車に入社して、初めて乗ったメルセデス・ベンツはこのW114の300D(画期的な5気筒ディーゼルエンジン搭載でボディカラーはイエロー)であった。もっぱら、筆者の役目は当時のダイムラー・ベンツ社の有名なトレーナーが来日する度にホテルと会社の送迎担当でよく洗車もした。しかも、役員のメルセデス・ベンツの車両が250CE(シルバー)で、当時のパーキングタワーの出し入れもしたものだ。
ボディはコンパクトでもシートは身体を充分に包んでくれるサイズが確保され、ファミリーカーとしても乗員を温かく歓迎する雰囲気のキャビンで安心感があった。機構上、もっとも大きな変更はパワーアシスト付きのステアリングを採用し駐車場も楽に操作できる様になったことだ。コンパクトで視界も広いので女性にも付き合い易いメルセデス・ベンツが誕生したと言える。 ステアリングは大径で扱い易いだけでなく、しっかりとした重みもあり、安心感のある握り心地が特徴であった。リアにセミトレーリングアーム式を採用したことも注目に値し、旧式のスウィングアクスルに比較して明らかにキャンバーの変化が少なくなり、ワインディングロードでのハンドリングはメルセデス・ベンツ特有のニュートラルに近い好ましい弱アンダーステア特性を示した。
高性能な280CEでは、さすがにスタビライザーを強化するなど、ツインカムエンジンの速さに対応する仕様であったが、セダンでは自然なロールを示すセッティングで、走りのクォリティは相当なものだった。 ドライバーにとっての最高のプレゼントは、より配慮の行き届いた運転席のレイアウトである。メルセデス・ベンツのインターミディエイトがこんなにもダイナミックなムードを押し出してきたのはこれが初めてのことだった。それまでの「Sクラスの小型版を造っておけば誰も文句はなかろう」と言わんばかりの傲慢さがなくなった。しかし、もっとも評価すべきは、このモデルから明らかにこれまでとは違う、実力の高いセーフティパッドの材質を随所に配し、吟味されたダッシュボードの材質を採用するなどして、実際に抜群の衝撃吸収能力を発揮したことだ。永年安全性を唱えてきたメルセデス・ベンツが遂に本領を発揮しはじめたと言える。