【芸術の秋に行きたい展覧会】東京都美術館の「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」を市川紗椰がナビ!
「孤高の画家」のイメージを覆す、彩り豊かで情熱的な作品と生き方に、素直に感動
(右)『不喰芋と蘇鐵』1973年以前 絹本着色 個人蔵 (左)『アダンの海辺』1969年 絹本着色 個人蔵 展覧会のクライマックス、最後に展示された作品は、一村が1974年の手紙で「閻魔大王えの土産品」と記した2つの“畢生の大作”。どちらにも奄美大島の亜熱帯植物と海がダイナミックに描かれている。
『椿図屏風』2曲1双 1931年 千葉市美術館 没後36年たって発見された屏風は、作品が少なく「空白期」と考えられていた一村20代のイメージを覆したもの
『奄美の海に蘇鐵とアダン』1961年1月 絹本墨画着色 田中一村記念美術館 奄美大島で見た美しい自然が画面いっぱいに
トビラの奥で聞いてみた
展示室のトビラの奥で、教えてくれたのは… 東京都美術館 学芸員 山田桂子さん 市川 膨大な作品を年代順に見てゆくと、決して孤独や挫折の人ではなかったのだな、とよくわかりました。幼い頃から晩年まで常に進化の過程にあることがうかがえますね。亡くなる直前の作品にも、新しい変化や挑戦が感じられました。 山田 そうですね、田中一村は生涯一度も筆を折ることはありませんでした。様々なことが起きた69年間の人生ですが、その間、支援もありましたし、世間からまったく離れて暮らすということもなかったのです。この展覧会では、そんな彼の不屈の情熱や息遣いを感じていただけたらと思っています。 市川 一つひとつの絵が違っていて、どんなものに描いても色と構図のセンスがとても素敵。こんなにもたくさんの引き出しがある人なのかと驚きました。 山田 そうですね、大規模な回顧展の開催は2010年以来で、今回は多くの新出資料が展示されているのも見どころです。’13年に発見された「椿図屏風」もそのひとつ。空白期といわれていた20代半ばの一村の画業に、新たな光が当たりました。 市川 おお、今回の展覧会をきっかけに、さらに新発見が出てくるかもしれませんね。美術史が今まさにでき上がりつつあるという感じがしてワクワクしました。 山田 おっしゃるとおりです。こうして現在残されている一村作品の全体像を皆さんにお披露目することで、この先の研究が深まる土台が整ったように思います。 市川 将来、新しい一村展が開催されたとき、再会するのも楽しみになりますね。