令和ロマン・髙比良くるま「M-1再挑戦理由の半分は松本さんの不在」。漫才を“過剰考察”した著書は「巨大な反面教師」と語る真意《インタビュー》
2024年11月8日、『M-1グランプリ2023』王者・令和ロマンの髙比良くるまさんによる『漫才過剰考察』(辰巳出版)が上梓された。本書は、Webマガジン『コレカラ』の連載「令和ロマン・髙比良くるまの漫才過剰考察」に大幅な書きおろしを加えた一冊。過去のM-1の分析や東西南北の漫才考察などのほか、2018年M-1王者である霜降り明星・粗品さんとの対談も収録されている。
「2024年もM-1に出ます」と宣言した真意や、若手ながら漫才を言語化することへの考え方、読者に期待すること、そして今年のM-1に見出す希望まで……誰よりも“過剰”に考察してきたくるまさんに、話を聞いた。 (取材・文=堀越愛 撮影=川口宗道)
M-1再挑戦の真意とは
――昨年M-1で優勝したにもかかわらず「2024年も出場する」と宣言したときは、だいぶ話題になっていましたね。『漫才過剰考察』を読むと再挑戦する理由が察せられるのですが、一般的にはなかなか理解されないのではと思います。再挑戦を決めた際、まわりの反応はいかがでしたか? 髙比良くるまさん(以下、くるま):芸人は「めっちゃええやん」って感じでした。(2015年以降のM-1優勝者では)ほかにやってる人がいないし、面白いじゃないですか。本当に漫才やM-1が好きだったら、ワクワクすると思います。もし昨年僕ら以外の芸人が優勝していて、その人たちが「もう1回出る」と言ったら「それ良いな、やられたな」と思うと思うんで。 ――SNSを見ていると、M-1再挑戦に対しマイナスの意見を持っている一般の方もいたと思います。そういった意見はどう捉えていましたか?
くるま:良くないと思う人もいるでしょうけど、「それとこれとは別なんで」って感じですかね。僕は出たほうが良いと思ったんで、出る。意思決定するときはいろんな意見を踏まえて判断しますけど、M-1出場に関してはほかにやってる人がいないから出たほうが盛り上がるし、総合的に考えてメリットのほうが大きかったんで。「出ないほうが良い」と言う人は「枠を潰すな」ってことなんでしょうけど、決勝メンバーはいろんなバランスを見て選ばれるから、必ずしも俺らが枠を食うわけじゃない。 あと、今年も出る理由の半分くらいには「審査員に松本(人志)さんがいない」があります。M-1は今年で20回目の記念大会だし、盛り上がるフックはあったほうが良い。M-1に恩を返したいので「なにかしなきゃ」って思うんですよね。今年の『キングオブコント2024』ファイナリストが“堅い”メンバーになったのを見て、ますますそう思いましたよ。松本さんがいたら、もっと勝負したメンバーになっていたかもしれない。……ここまで言っちゃうのはアレですけど、変なネタをやる芸人は、俺らがいたほうが上がりやすいと思いますよ。“令和ロマンが決勝に行けたら”の話になりますけど、僕らがいれば「漫才実力派vs.令和ロマン」みたいな構図になることは計算がつくじゃないですか。でも、そこをさらっと変なネタをするヤツがかっさらっていく……こういうのもめっちゃ面白いと思うんです。 でも俺らナシだと、松本さん不在・20回記念というめっちゃハードルが上がる状態で、ガチガチの技術対決みたいになって点差もつかない。それよりは俺らが決勝に行ったほうがバラエティになるし、良いなって。でもお客さんがそんなの知ったこっちゃないのはわかるし、その意見を否定はしないですよ。 ――『漫才過剰考察』にも収録されている、昨年決勝に挑む直前に受けたインタビューでは「歴代最高得点が出る大会にしたい」「点数のインフレを起こしたい」とお話しされていましたよね。今年も同じ気持ちですか? くるま:今年インフレを起こすのはムズいと思うんですよね。松本さんがいないのもあって、点差が付きづらいと思うので。だから「最高得点」にはもうこだわってないです。むしろ、点数どうこうをやめたいくらい。 ――なぜ点数にこだわらない考え方になったのでしょうか? くるま:本にも書いたんですけど、“競技化”の思想が行き過ぎた結果、昨年は現場であまり盛り上がらなかったんですよ。見ている側の熱量がすご過ぎて、準決勝と同じネタをするとお客さんが「知ってる、うんうん」みたいな顔になってたり、面白いところで笑い声が起きてなかったり……。競技になり過ぎてそんなことになるなら、もうダメだ。もっとふざけないと……なにをみんな、真剣にダンビラムーチョを見てんだよと思って(笑)。『キングオブコント』のときもちょっと思いました。なんでみんな真剣に「冨安四発太鼓」を見てるんだ。もっとバカみたいな目で見ようよ! と。 ――もっと気楽に見ようよ、ということですか? くるま:決勝だし、気楽に見るのは難しいと思うんです。それはわかるんですけど、俺らがもしまた決勝に出れたら、一回優勝したヤツが出てる時点で緊張感が薄れるじゃないですか。絶対にバカげた空気になるし、良いと思うんですよね。 ――では、今年はファイナリストになるのが最低限の目標でしょうか。 くるま:そうっすよね。行かなきゃ意味ないですもん。まぁ、行けなかったとしても結局面白いんですけどね。連続で出た時点で、どんな結果でも“勝ち確”みたいなところはあるんですよ。もし二回戦で落ちてたら、超面白かったですよね(笑)。そうなったら面白いと思うけどそこはグッとこらえて、決勝まで進みたいですね。
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