テスラ率いるイーロン・マスク氏はなぜEVメーカーに逆風となるトランプ氏の「補助金打ち切り」方針を支持するのか
■ 補助金廃止の痛手を補って余りある「サイバーキャブ」の実用化 BEV、PHEV(プラグインハイブリッドカー)などの新エネルギー車は世界的に競争が激化し、もはやレッドオーシャンと化しているが、ことBEVに関しては今もテスラが世界首位だ。 テスラの営業利益率は自動車メーカーとして驚異的な水準を達成した2021年~2022年に比べると低下しているが、状況が悪かった今年上半期でも十分な黒字を出し、7月~9月は営業利益率を再び10%以上に持っていくことに成功している。進境著しい中国メーカーでもBEV分野でテスラ並みの利益を出せている企業はなく、まさに独り勝ちの様相である。 そのテスラにとって潜在的に脅威となるのは今のところ中国メーカーのみ。圧倒的な価格競争力とテスラも真っ青の高性能、先進性で大々的に攻め立てられればテスラとて安閑としてはいられないだろう。 だが、トランプ氏は大統領に就任したあかつきには中国車および中国部品を高関税で徹底的にブロックすると宣言している。その場合、アメリカでダメージを受けるのは中国部品への依存度が高い他メーカーの方で、アメリカ国内向けはバッテリーや半導体など部品レベルまでローカルコンテンツ率が高いテスラは傷を負わない。中国車との戦いが中国市場だけで済むのであれば、補助金廃止で負う傷くらいは商品性で乗り越えられる。 もうひとつのカギは自動運転だ。テスラは今年10月に完全自動運転のロボタクシー(呼称「サイバーキャブ」)を公開、2026年末までの発売を予告した。 このサイバーキャブの最大の売りはもちろん自動運転だが、マスク氏によれば運転行為をAIが行うという。現在のレベル4自動運転(限られた地域、気象条件の環境下で運転者を必要とせずに走行可能。責任はメーカーおよび運行者が負う)は綿密なナビゲーション情報とセンサー情報を総合してクルマが無数の正誤判定を行い、それを人間が遠隔監視で補助している。 サイバーキャブが本当にAIに運転させるのだとしたら、現在のレベル4を超えて完全自動運転レベル5に一歩踏み出すものになる。BEVの性能を競って利益を上げるステージはもう終わったと判断しているのであれば、補助金をアテにする必然性もなくなるというわけだ。