青学大・原晋監督がぼやいた「まさかの3位よ。びっくりしたなあ、もう」箱根駅伝まで2カ月、青学大の誤算「差がついたのは『中間層』」「やりますよ、箱根は」
国学院の“奇策”…その正体とは?
原監督の発言を読み解いてみる。 これまでの「文法」に則って考えれば、この日の全日本であれば、4区で黒田が大差をつけた時点で勝ったはずだった。青山学院というチームは「先行者利益」を最大限に発揮できる学校であり、全日本の場合であれば、「つなぎ」の5区、6区は選手層の厚さで相対的には強みを出しやすい区間だった。 ところが、今回はここで国学院に一気に差を詰められ、貯金を使い果たした。 なぜか? 国学院の前田監督は、後半型のオーダーを組むことで、各区間での「真っ向勝負」を微妙にかわした。 国学院の戦力を分析すると、エースの平林(清澄・4年)は飛車というより、もはや「龍」。これまでの実績を考えると、山本歩夢(4年)が角相当、青木瑠郁、出雲駅伝で5区を走った上原琉翔(ともに3年)、出雲4区で区間賞の野中恒亨(2年)が、売り出し中の銀桂といったところだろうか。 今回の国学院の戦略は、青学の鶴川、黒田といった「飛車角」には角、あるいは金銀でしのぐ。そして、結果的に勝負の趨勢に大きな影響を及ぼした5区、6区については、青学が「銀桂」でしのごうとしたところに、国学院は野中、山本を当てた。そしてこのふたりが、「成金」「馬」になった。 大駒同士の直接対決は7区の「太田対平林」だけとして、前田監督はちょっとずつ駒の格をずらしながら、後半に成駒が大暴れする戦術を採った。これが、当たった。ひょっとしたら、駒澤出身の前田監督が「復路重視」の大八木弘明監督(当時、現総監督)のもとで指導を受け、直接的とはいわないが、それが年月をかけて発酵し、斬新な戦術が生まれた可能性はある。
「太田の力はあんなもんじゃない」「青山学院。やりますよ」
原監督は、レース中盤をこう振り返る。 「中間層を比較すると、国学院の方に一日の長があったと認めざるを得ないです。本当に強くなってる。4番手、5番手の選手たちの実力が上がってきて、ウチが後手に回ったよね。一本取られました」 青学としては正攻法で戦い、想定通りに走れた区間も多かったことから、原監督も敗れてもサバサバしていたのかもしれない。「もう、簡単に勝てる時代じゃなくなった」と原監督は苦笑いする。 「今度の箱根もたいへんなレースになるでしょう。これまでのように往路優勝して、山下りの6区、そして7区でダメを押して、8区以降は大手町に向けて“ピクニック・ラン”とか呑気なことは、絶対に無理だね」 ただし、箱根駅伝だけは譲れない。それは青山学院にとってのアイデンティティでもある。 原監督は、箱根駅伝に向けて中間層の競争力アップ、そして太田に期待していると話した。 「太田、今日もすごかったね。国学院の平林君に追いつかれてから、また引き離したんだから。ただ、太田の力はあんなもんじゃない。今日、7区の後半に発汗して口が開いていたでしょう? あれは暑さのせいだと思うんだ。太田は空気がひんやりしてきてからがいいのよ。お正月の箱根、いいですね。空気がピリッとして。そうなると、太田は走る」 太田はチーム内で「スペードのエース」的な存在だとは思うが、こと箱根駅伝となると、敵軍のエースを沈める「ジョーカー」へと変身する。 1年生の時は3区で東京国際大学のエース丹所健を抜き、3年生となった前回は、同じく3区で駒大の佐藤圭汰を沈めた。箱根駅伝において、太田は優勝を呼び込む決定打を放ってきた。 鶴川、黒田というエース、そしてジョーカーに化ける可能性を秘めた太田を手札にそろえ、さらに中間層を刺激して絵札に出来るか。原監督はいう。 「青山学院。やりますよ、今年も」 第101回箱根駅伝は、名作誕生の予感がする。
(「スポーツ・インテリジェンス原論」生島淳 = 文)
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