父を難病で失った息子が始めた「ありえない商売」 誰も思いつかなかった「幸せな人生」の見つけ方
「誰でもそうだと思うのですが、父親の死を目の当たりにしたときのことは、一生忘れないでしょう」 ライアンが心を痛め、もっとも鮮明に記憶したのは、父の死ではなかった。 亡くなった父を発見したライアンは、すぐさま母親に伝えた。10分ほど経つと母は彼に1通の茶封筒を手渡した。それはアルネからの短い手紙だった。他のきょうだいや母でなく、自分だけに宛てられた手紙。それは短い一節ながら、父親が息子に対して渾身の力を振り絞って書いたものだ。
「若い私のもっともつらい時期、父親がそばにいてほしいのにそれがかなわない、そんな私の将来を考えてくれたんでしょうね」 手紙はこれだけではなかった。ライアンはその後、父から数多くの手紙を受け取ることになる。その中には「死ぬのが怖いわけではない」という言葉があった。告知を受けてすぐに現実を受け入れたのだという。 そう、死ぬのはつらくない。つらいのはこれから先、妻や子どもたちのそばにいてやれないことだ。彼らの悲しみを少しでも和らげてやりたいという思いから、アルネは手紙を書いた。子どもたちが将来体験するであろう、人生の貴重な瞬間宛てに。
アルネが遺した手紙は妻や他の子どもたち、他の人々に宛てたものも含めると、数十通に上る。 人がこの世を去っても、残された人々はつながりを感じ続けることができる。こうした手紙の存在は、それを強く思い出させてくれる。未来の自分、そしてその先に思いをはせたことで、アルネは自分のみならず、他の人々の未来の姿を形づくることができた。 この手紙をきっかけに、ライアンは会社を立ち上げることになる。20年前に警官の職に就き、サンディエゴ警察に配属されたライアンは、特に暴力事件が多発する地域の巡回を担当することになった。
配属1年目には銃撃事件に何度も遭遇した。父親には数年の「猶予」があり、残された日々について計画を練ることもできただろうが、自分は仕事柄、いつ死んでもおかしくないと思うようになる。 そこでライアンは父のように手紙を書くことにした。しかしそれは思いのほか難しかった。恐ろしく時間がかかってしまうのだ。 ■患者が希望を手紙で伝えるプロジェクト それなら「ビデオレター」はどうだろう。しかし、ウェブカメラで撮影する「ビデオレター」は、予想以上の難しさだった。娘の結婚式に花を添えようと録画を始めたが、ひたすらすすり泣くだけの映像になってしまい、意味のわからないメッセージになってしまった。