<三南プライド・’21センバツ>高校野球界の先駆け/中 年末年始アルバイト 地域の後押し実感 /静岡
◇「野球以外の何か」残す 大量の大根を水洗いし、かごに入れる。かごがいっぱいになれば、軽トラックに積み込む。2学期が終わり、年の瀬も迫った2020年12月26日、深瀬暖人(はると)選手(1年)が三島市の内藤秀一さん(63)の営む七草農園で黙々と作業を繰り返していた。 野球部を率いる稲木恵介監督(41)の紹介で4日前に決まったアルバイト。朝から夕方までひたすら大根の収穫や水洗いを続ける。初めての作業で「腰が痛い」と苦笑いしつつも、「小さかったり大きかったり、形がいろいろで面白い」と充実感を漂わせた。 三島南高は許可制でアルバイトが認められている。特に野球部員は年末年始に地元のさまざまな業種で働くことが慣例だ。目的は、就業意識を高め、金銭感覚を身につける▽給与の一部を遠征費にあて、チームの強化につなげる▽地域活性化に努める――の三つ。 深瀬選手はインターネットサイトや友人の紹介でアルバイトを探し、当初、自宅に近いピザチェーン店で働こうと考えていた。ところが、締め切りまでに申し込みが間に合わず、あてが外れる。代わりもすぐに見つからず、途方に暮れて稲木監督に相談したという。 内藤さんは息子が田方農業高(函南町)野球部出身という縁もあり、三島南高野球部の活動を後押しする。稲木監督に「真面目な子だから、よろしく」と頭を下げられ、急きょ、深瀬選手を引き受けた。「地元の三島南高の活躍がうれしいからね」と意に介さない。 稲木監督は「アルバイトを探すことも含めて社会勉強。野球部にいながら、野球以外の何かを自分に残すことも大切だ」と強調する。新型コロナウイルスで経済が冷え込む中、冬のアルバイト代の一部を家計に入れることで、家庭に恩返しする機会にもなった。 マネジャーの対馬そらさん(2年)は19、20年と続けて、知り合いが経営する市内の美容院で働いた。仕事は、掃除やお茶出しという一見すると、地味な内容だ。ところが、対馬さんにとって、普段のマネジャーの仕事を見つめ直すきっかけになっているという。 「マネジャーもあまり表に出ることがない。けれど、アルバイトを経験して『細かいところまでしっかりとやろう』と意識するようになった」と明かす。客に「部活動も頑張ってね」と声をかけてもらうこともある。地域の支えを実感することで、より一層、野球が好きになる。【深野麟之介】