「ちょっと疲れたな」順調だったイタリア生活、でも母には伝わっていた“危険なサイン”…大塚達宣(24歳)を救った母の助言と石川祐希の存在
チームメイトも認める大塚のエネルギー
同じ時期にチームメイトからかけられた言葉も、大塚に再び力を与えた。 「タツノリは、朝の練習からニコニコいい顔して、『ボンジョルノ! 』って元気に来るから、こっちも元気になるよ。お前はそういうエネルギーをチームに与えてくれるやつだよね」 ミラノに来てからやってきたことはしっかりと報われていた。 「自分の“存在価値”じゃないですけど、そんな話をしてくれました。イタリアは結構、朝弱い人が多いみたいで(笑)。 プレーは急にガッとうまくなるわけじゃないけど、そういうエネルギッシュな部分は、やろうと思えばいつでもできること。だからそこは大事にしたいなと改めて思いながら、(9月14、15日に行われた)イエージ・カップに行きました」 セリエA開幕前に行われたイエージ・カップには、石川が所属するペルージャも参戦していた。対戦は実現しなかったが、そこで会った石川の姿も大塚に刺激を与えた。 「『ほんまに祐希さんがいるこのリーグに来たんや』って感じがして(笑)。ペルージャの試合をちょっと見たんですけど、コートでの立ち居振る舞いが、代表の時とはまた違って、昨シーズンまでスマホで観ていた祐希さんって感じだった。勝手な僕の印象ですけど、代表の時より一段体での表現が多いのかなって。 会った時には『元気そうでよかった』と言ってくれて。祐希さんも新しいチームでポジションをまた取りに行くところから始まるので、『お互い頑張ろうね』って話をしました。僕はちょうど疲れが出たり、いろんな感情の波があった時期だったので、すごく刺激になったし、『頑張ろう』ともう一個火がつきました」 強くなるために、イタリアに来た。その思いを新たにした。
ティリさんと磨いたサーブレシーブ
パリ五輪での大塚は、スタメンこそなかったが、先発した石川や高橋藍に代わり重要な場面でコートに入ることが多かった。予選ラウンド第3戦のアメリカ戦は、1セットを取れば準々決勝進出が決まる状況だったが、1、2セットを連取され崖っぷちに。だが第3セットのスタートから出場した大塚が、いつものようにポジティブなエネルギーをコートに注入して流れを変え、チームを救った。 「東京五輪が終わってからパリまで、ずっと同じような立ち位置というか、途中から入ることが多かったですけど、でも年々自分の中で、できることは増えてきているなという実感はありました」 大塚自身が一番変化を感じていたのがサーブレシーブだ。 「パナソニックの3シーズンで、サーブレシーブが一番改善できたと思います。(監督のロラン・)ティリさんに付きっきりでずっと教えてもらっていましたから」 パリ五輪では激戦となったイタリア戦の終盤、疲れの見えてきた石川と交代して後衛で起用された。それだけ日本代表のフィリップ・ブラン監督も大塚のサーブレシーブと守備を信頼していたということだ。 ミラノでも、アウトサイドのポジションをつかむにはまず守備面からだと考えている。 「スタートを取りにいく、という気持ちはやっぱり強いです。強くなるためにこっちに来たので。たとえ時間がかかっても。いろんな選手からたくさんのことを盗んで、どんどん強くなって、出る機会を増やしていきたい。代表の時よりも、今のほうがそういう気持ちは強いし、そこは大事にしていきたい」 そう熱く語ってから、「あ、語弊がありますね」と補足した。 「もちろん代表の時も思っていましたよ。ただ、代表の時と同じ立ち位置のままだったら嫌だな、という気持ちが強いという話です。確かに途中出場で入るのは、それだけ頼りにされているということなのかもしれないですけど、それだけじゃ満足できない自分がいる。最近の代表でもそうですし、こっちでもそう。コートに入って長くやりたいという気持ちは年々強くなっています」 代表での今後を、こう見据える。 「ロスまでの4年は、僕は年齢的にも一番面白い4年間だと思うので、いろんなことに挑戦したいという気持ちが強い。だから今こうやってイタリアでやっていますし。4年後どうなっているかはあまり考えないですけど、自分を鍛えられる期間なので、プレーもフィジカルもメンタルも、もっともっと強くなりたい。もちろんスタートにも食い込んでいきたい。そのためにこっちに来た部分もあるので。自分のいいところは貫きながら、もっと自分を大きくしていきたい。それだけですね」 ミラノでのポジション争いはハイレベルだ。アウトサイドには、行く先々でチームを優勝に導いてきたベテランのマテイ・カジースキ、パリ五輪金メダルのフランス代表ヤシン・ルアティ、身長206cmのダビド・ガルディーニと実力者が揃っている。 大塚は怪我のため開幕に出遅れたが、第5節のヴェローナ戦で、後衛で途中出場しセリエAデビューを果たすと、第7節のグロッタッツォリーナ戦で初得点を挙げた。欧州チャンピオンズリーグの初戦・ルーセラーレ(ベルギー)戦では初先発し、フルセットの勝利に貢献。 コートにいてもベンチにいても、絶えず周囲に声をかけ、ポジティブなエネルギーを発し続ける。“自分らしく”を貫く先に、必ず飛躍が待っている。 〈全2回/前編から続く〉
(「バレーボールPRESS」米虫紀子 = 文)
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