景気強いが、インフレ率が高まらない 米、今年3回目の利上げに暗雲か?
今回、新たに加えられたインフレ率の下振れを警戒するメッセージとは?
これは7月FOMCでも大枠は変わりませんでしたが、一方、今回新たに加えられたのは、インフレ率の下振れを警戒するメッセージです。多くのFOMC参加者が、「インフレ率が現在の予想よりも長い間2%を下回り続ける可能性がある」としたほか、数名の参加者が、「インフレ見通しが下落方向に動くリスクがある」と指摘しました。このように、「インフレ率鈍化が一時的」であるとの見方に疑問を呈す参加者が増加したことは、12月の利上げ再開のハードルが高まったことを意味します。これは言うまでもなく、過去5カ月程度のインフレ指標が不可解なほど鈍化したことに対する懸念です。 その他、追加的なメッセージとしては、数名の参加者が、低金利政策の長期化が株価の一段の上昇を通じて「更なる(≒過度な)金融環境の緩和」を誘発するとして資産市場の過熱を警戒したほか、2名の参加者が商業用不動産の過熱を注視する構えをみせたことです。
これらを整理すると、現時点で連邦準備制度(FED)参加者の最大の関心事は、やはりインフレ率の軌道です。景気が順調に拡大するなかでも、目下のようにPCEデフレータが下向きのカーブを描きつつ2%を下回っているようであれば、利上げは正当化されにくいと言えます。他方、このところの株価バリュエーションに鑑みると、緩和的な金融政策の長期化が資産バブルや過度なリスクテイクを促す可能性を無視できないのも事実で、仮にそうした傾向が顕著になった場合はインフレ率が下向きでも引き締め的な方向に舵を切る可能性があると判断されます。12月時点でインフレ率の反転上昇が確認できなかったとしても、株価が高値圏を維持するようであれば、追加利上げ断行の可能性があることを想定しておきたいところです。 上述のとおり、FRBにとっての最大の懸念事項はインフレ率の低下基調に歯止めがかからないことですが、ここへ来て株価や商業用不動産の価格上昇が行き過ぎていることも新たな懸念事項になっている模様です。金融政策を予想するうえでは、「上がらない物価と上がりすぎる資産価格」のバランスを考慮する必要があります。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。