将来の夢、AIがサポート! 子供の可能性を広げる対話プロンプト
EducAItion Timesは、「大人のきぼう こどもの未来」をテーマに、生成AIの活用情報をお届けします。本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」のメンバー8名が運営するもので、子供たちの好奇心を刺激する、新たな学びの提供をめざしています。 【画像】夢探しAIアシスタントとの対話イメージ 「YouTuberになりたい!」「看護師さんみたいになりたい!」 作文のテーマでよく取り上げられる「将来の夢」。しかし、子供たちの答えを聞いていると、その多くが身近な大人の職業や、日常的に目にする仕事に限られていることがほとんどではないでしょうか。 身近な存在からの影響で夢が見つかることは素晴らしいことですが、まだ知らない可能性も広げてあげたい。しかし、保護者や教師である私たちにも、自分の知る仕事以外の選択肢を示すことは難しい。そこで今回は、生成AIを活用して子供たちと一緒に将来の夢を探索する方法をご紹介します。 ■ 夢探しAIアシスタント!実践的プロンプトの使い方 今回ご紹介するのは、子供の興味や適性を丁寧に引き出しながら、職業の可能性を広げていくためのプロンプトです。ChatGPT(特にGPT-4)やClaude 3.5との相性が良く、小学校中学年から高校生まで、幅広く活用できます。 このプロンプトの最大の特徴は、子供との対話を通じて段階的に職業提案を行う点です。まず興味・関心を丁寧に引き出し、それに基づいて幅広い職業を提案。その反応をもとに新たな提案を重ねることで、子供自身が「わくわくする」職業に出会えるよう設計されています。 生成AIとの対話は、以下のような流れで進んでいきます。 子供は生成AIとの会話を楽しみながら、将来の可能性を探ることができます。 実際に子供に使ってもらった保護者からは、「将来の夢について、具体的に今何をすればいいのかが分かるところがよい」「生成AIが自分に興味を持って会話してくれることが新鮮で、嬉しそうだった」といった声をいただいています。 使い方は簡単。以下のような基本プロンプトを入力するところから始まります。以下のプロンプトをコピー&ペーストし、学年と自己紹介を入力して使ってください。 私は【小学校・中学・高校●年生(学年を入力ください)】で、将来の夢を探しているところです。私の学年に合わせた言葉や質問で、「こんな仕事が向いているかも!」と提案してもらえますか? 【自己紹介(記入してください)】 ・好きな教科と、その理由: ・得意なこと: ・楽しい!幸せだな!と感じる瞬間: ・所属している部活や、習いごと(あれば): 【手順】 ①自己紹介を元に、どんなことでも質問してください!答えた内容から、私に合いそうな職業を一緒に考えていきたいです。 ・きっと私自身にも、私が自覚していない価値観(楽しいこと・向いていること)があります。私が新しい私を発見できるように、1問ずつ質問をしてください。 ・価値観を知るような質問は、例えば以下のような質問です。 -1人でじっくり物事に取り組むことと、一緒にチームで何かをすること、どちらが好き? - パソコンなどの作業と、身体や手を動かして作業すること どちらが好き? - 自分の技術を極めていくことと、人を喜ばせること、どちらが好き? - その他、思いがけない面白い質問 ②質問の回答を元に、私に合いそうな職業を6つ提案してください。6つは知名度の高い職業(漫画家、YouTuberなど)だけでなく、会社に就職するとなれる職業や、子供があまり知らないようなマイナーな職業も混ぜてください。 職業ごとに「どんなことをするの?(仕事内容)」「やりがいと、大変なところ」「どんな人に向いてる?」をわかりやすく説明してください。 ・職業を提案した後は、以下のように投げかけてください。 「この6つの職業の中で、あなたが興味のある職業の番号を教えてください。」 ③回答を元に、別の視点でさらに6つの職業を提案してください。知名度の高い分かりやすいクリエイター系の職業(漫画家、YouTuberなど)だけでなく、会社に就職するとなれる職業や、子供があまり知らないようなマイナーな職業も混ぜてください。 ・職業を提案した後は、以下のように投げかけてください。 「この6つの職業の中で、あなたが興味のある職業の番号を教えてください。」 ※もしここまでに1つも「興味がある」職業がなかった場合は、追加質問をした上で新しい職業を提案し、「興味がある」が出てくるまで繰り返してください。 ④今まで「興味がある」と回答した職業を並べて、以下のように投げかけてください。 「これまで”興味がある”と答えてもらった職業を並べました。一番わくわくした、なってみたい職業を教えてください。もしピンとくるものがなければ、さらに質問をしながら新しい職業を一緒に考えます!もし、わくわくしたものが多くて絞れなければ、”興味があるものが多くて絞れないので、選ぶ軸を探すための質問を私にしてください“」と投げかけてください。 ⑤最も興味がある職業について、以下を提案してください。 ・その職業になるための具体的な道筋やスキル ・今すぐできる準備や取り組み ・その職業に関連する、可能性の広がる別の職業 ⑥提案が終わったら、感想を聞いてください。 ⑦今までのやり取りの内容を生かし、以下のメッセージを加え、「他の誰でもない」私へのエールを最後にください。 ・これからいろんな新しいことを経験するよ!その中から、今日は出てこなかった新しい興味や、夢が見つかるかもしれないね ・実際の経験に勝るものはない。まずは、先ほど挙げた「今からできること」に取り組んでみて、やっていて楽しいか?もっとやってみたくなるか?を感じてみよう。その職業の人を探して、話を聞きにいくのもいいと思う ・「思ったより面白くない…」「他に面白いと思うことができた!」と思って、やりたいことが変わっても全然OK!自分が何を感じ取るかが大事だし、何かを目指して頑張った経験は絶対に無駄にならない。違う道を選んだとしても、その経験は必ず生きてくるし、経験の数だけ可能性が広がる ・生成AIは間違った情報を出すときもあるから、必ず自分でも調べてみよう ・また興味が変わったり迷ったりしたら、いつでも相談してね ■ キャリア探索における生成AIの可能性 このように生成AIを活用したキャリア探索には、いくつかの大きなメリットがあります。 新たな自己理解の機会 生成AIとの対話を通じて、子供の価値観や興味が明らかになっていきます。保護者や教師も、「こんな考えを持っていたんだ」と、子供の新しい一面を発見できるかもしれません。また、自分の価値観を言葉にしていく過程で、子供自身が「自分に合う職業とは何か」を考える力も育まれていきます。 知識の幅広さ 1人の人間の経験値を超えた、多様な職業の提案が可能です。保護者や教師が知らない職業についても、詳しい情報を得られます。 高い利便性 「今、話を聞いてほしい」というタイミングで、いつでも相談することができます。 ただし、生成AIだけでは補えない部分もあることを覚えておく必要があります。 実際のコミュニケーション能力は培えない 実社会で必要な「目を見て話す」「表情や声のトーンを読み取る」「場の空気を感じる」といったコミュニケーションスキルは、実際の人との関わりの中でしか身につきません。特に就職活動や職場での人間関係を考えると、リアルな対話経験は不可欠です。 情報の正確性は要確認 生成AIは膨大な情報をもとに回答を生成しますが、特に最新の職種や、資格・進路に関する具体的な情報については、正確でない可能性があります。例えば「この職業に必要な資格」「進学すべき学校種」などは、必ず公式情報で確認する必要があります。 実体験には及ばない 職業について詳しい説明を受けても、実際の現場の雰囲気や、仕事の醍醐味を完全に理解することは困難です。例えばパティシエの仕事を考えるなら、実際にお菓子作りをして身近な人やSNS投稿で反応を確かめたり、現役パティシエの話を直接聞いたりする体験の方が、はるかに深い理解と意欲につながります。 このように、生成AIは職業選択の可能性を広げる「入り口」として活用し、そこから実際の体験や人との出会いを通じて、理解や興味を深めていく。そんな段階的なアプローチが効果的といえるでしょう。 ■ 「山登りキャリア」と「川下りキャリア」、夢を育てる新しいアプローチ キャリア選択には、大きく分けて2つの道筋があります。一つは「山登りキャリア」。大谷翔平選手のように、幼い頃から将来の夢が明確で、一つの目標(山)に向かって邁進するタイプです。 もう一つは「川下りキャリア」。将来の夢が明確でなく、いかだで急流を下るように、目の前に起こる様々な経験から自分の道を探していくタイプです。日本では現在も総合職採用が主流であることから、実は多くの人が「川下りキャリア」からスタートを切ることになります。今回ご紹介したプロンプトも、川下りの流れのように、新しい可能性との偶発的な出会いを大切にする設計になっています。 どちらが正しいというわけではありません。川下りを経験してから明確な目標を見つけ、山登りに転じることもあります。大切なのは、子供たち自身の「わくわくする気持ち」に寄り添うこと。生成AIとの対話は、その気持ちを見つける良いきっかけになるはずです。好奇心を育て、可能性を広げる。生成AIを味方につけた新しいキャリア探索の旅に、ぜひチャレンジしてみてください。 【留意点】文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」には、子供の生成AI活用では「年齢制限・保護者同意等の利用規約ではの遵守を前提に、教育活動や学習評価の目的を達成する上で、生成AIの利用が効果的か否かで判断することを基本とする」(5ページ)とあります。保護者の方が必要に応じて手順や質問をガイドしながら、一緒に利用してください。 ※※追記:上記の留意点は、12月26日に文部科学省が公開した「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」の発表以前に執筆した内容になります。
こどもとIT,IKIGAI lab./岡田 菜子