「悔しかった。焼酎の限界を感じた」ウイスキーメーカー・嘉之助蒸溜所の挫折と挑戦
鹿児島から世界へ。長年の技術がもたらす、ウイスキーの個性
ウイスキー造りを進めることになったものの、当初は経験者が一人もおらず、焼酎造りの技術者ばかり。そこで、スコットランドに研修に行き、ウイスキー造りを学びながら、ようやく2017年に製造免許を取得。祖父の名を冠した「嘉之助蒸溜所」を設立することができた。 さらにその3年後の2021年に、嘉之助蒸溜所初のシングルモルトジャパニーズウイスキー「シングルモルト嘉之助2021 FIRST EDITION」を発売。2023年12月には、嘉之助蒸溜所のシングルモルトウイスキーと、5分ほど離れた場所にある日置蒸溜蔵で造ったポットスチルウイスキー「嘉之助 HIOKI POT STILL」を、2024年7月にはシングルモルトとポットスティルウイスキーをブレンドしたジャパニーズウイスキー「嘉之助 DOUBLE DISTILLERY」も発売した。
こうした、KANOSUKEのウイスキーの個性はどこにあるのか。 「鹿児島で、しかも海沿いで造っているというロケーションこそが私たちのウイスキーの個性です。ここは、長年焼酎を造り続けてきた場所であり、祖父が将来の蒸溜所建設を構想した地でもあります。その夢を引き継いだ場所でこそ、造る価値があると思いました」 そうした歴史と、培ってきた技術がウイスキーに反映されている。樽熟成焼酎である「メローコヅル」の空き樽をウイスキーの熟成に使っていることも、他にはない特徴になっている。 「味わいは少し甘く、“メロー”な仕上がりです。他の蒸溜所ではなかなか出せない独自の風味だと思っています。ストレートでもハイボールでも、さまざまな飲み方で楽しんでいただきたいです」 日本のウイスキーらしくないオシャレなパッケージにもこだわり、海外での浸透も見据えている。 「ジャパニーズウイスキーは定義が曖昧で、海外の原酒がブレンドされているものも少なくありません。その中で造り手としてのプライドを持ち、ジャパニーズウイスキーの健全な成長と発展に貢献していきたいです」 最終的に目指すのは、世界中から「KANOSUKEに行きたい」と言われるブランドだ。 「海外のお客様にも鹿児島の地に訪れて、ゆっくりとウイスキーを飲みながら過ごしてもらいたいです」 祖父・嘉之助の意志を引き継ぎながら、世界に通用する蒸溜酒を探求する小正氏。その挑戦はまだ、始まったばかりだ。だが、ウイスキーに込めた情熱と世界を本気で目指す姿勢に、これからの未来への期待が高まる。 20歳未満の者の飲酒は法律で禁じられています。
文:吉田 祐基