<刺傷事件>「盲導犬を正しく理解して」使用者団体が声明を発表した背景とは?
盲導犬は存在自体が「虐待」なのか?
「盲導犬自体が虐待だ」という意見が一部で広がりを見せています。以前から聞こえてきたことですし、そうした考え方も当然尊重されるべきでしょう。しかし、上記の「盲導犬は何があっても声を上げないように訓練されている」というような誤解が根拠になっているとすれば、それらについては訂正されるべきです。 繰り返しになりますが、育成団体によって実情が異なります。ですので、ここでもオスカーの事件が枕詞になっている以上、「アイメイトの場合はどうか」ということを中心に書いていきます。 「盲導犬は酷使されているので寿命が短い」という根拠もよく提示されます。ラブラドール・レトリーバーは14歳くらいまで生きれば長寿とされますが、それ以上に高齢な元アイメイトのリタイア犬は珍しくありません。アイメイトには生涯を通じて専属の獣医などプロの目が行き届き、4週間の歩行指導を通じて適切な健康管理法が使用者にも伝授されています。 石川県のアイメイト使用者団体の会報『アイメイトクラブ通信42号』(8月1日発行)には、会員にゆかりのあるリタイア犬と現役アイメイトの訃報(昨年7月~今年5月)が載っています。 『エミリア』(リタイア)15歳1か月 『チャリス』(リタイア)19歳2か月 『カトリーヌ』(リタイア)15歳10か月 『リネアリス』(現役)8歳6か月 ※肝臓病 『ラナ』(リタイア)15歳
「死ぬまで働かされる」という匿名掲示板への書き込みも目にしました。アイメイトの場合は使用者の判断で引退の時期を決めますが、余力を残して引退させる人がほとんどです。引退後は「リタイア犬奉仕」のボランティア家庭に引き取られ、そこで家庭犬として余生を過ごします。アイメイトは、誕生から「繁殖奉仕家庭」「飼育奉仕家庭」「アイメイト協会」「現役時のパートナーの家庭」「リタイア犬奉仕家庭」と、いわば5つの家族と過ごすことになりますが、それを「かわいそう」と捉えるか、育成上のメリットに価値を見出すか、「たくさんの愛情を受ける」といったふうに捉えるかは、議論の余地があるところでしょう。ちなみに、ラブラドール・レトリーバーという犬種が選ばれている理由の一つに「一人の主人に執着しない傾向」があります。 また、子犬を預かるボランティア家庭で厳しい基礎訓練が行われているという誤解 もあるようですが、アイメイト協会はむしろ飼育奉仕家庭に向けて、1歳を過ぎた頃に協会に戻ってくるまでは「特別なしつけをしないで欲しい」と要請しているほどです。 「訓練しても盲導犬になれる犬は一握り」というのも、誤った認識と言えます。アイメイトになる候補犬は7、8割です。ちなみに、アイメイトになれなかった犬は家庭犬としてボランティアの一般家庭に引き取られます。数年単位で順番待ちしている人もいるくらい人気のある奉仕活動です。 アイメイト協会はこれまでに1200組余りの使用者とアイメイトのペアを送り出しています。その中で、過去に使用者による虐待を理由に譲渡を取り消したケースが1件あります。通報を受け、協会職員が本人と面会のうえ、虐待の事実を確認してその場で連れ帰ったとのことです。故意に見過ごしている、協会が気づいていないというケースがあるのでもない限り、現在のところ約1200分の1という確率です。