「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も
「近北極圏国家」は詭弁か
19年、マイク・ポンペオ米国務長官(当時)は、中国が北極圏進出をもくろんでいることを指摘し、21年には、北極圏にない中国が「近北極圏国家」だと主張するのは「共産主義者の作り話だ」だとツイッター(現X)に投稿した。 「中国は北極圏に強力な軍事的利益を見いだしている」と、カンタベリー大学(ニュージーランド)のアンマリー・ブレイディ教授(政治学)は語る。 「核兵器を搭載した原子力潜水艦を送り込むことも考えている。それが実現すれば、中国は(核攻撃を受けても、核によって反撃できる)第二撃能力を獲得することになり、核抑止の構図を一変するだろう」 中国は既に、北極圏への軍事的な圧力を強めている。今年7月には、中国海軍の艦艇4隻がアラスカ沖のアメリカの領海に接近。さらにその後、ロシアと中国の戦略爆撃機がアラスカ沖のアメリカのADIZ(防空識別圏)内を飛行した(ただし領空侵犯はなかったとされる)。 もちろん経済的利益も視野に入っている。中国は、50年までに北極海の海氷が、商業船の航行が可能なレベルまで溶けるとみている。そうなれば現在の3分の2程度の航行距離でヨーロッパに到達できる。 中国国有海運大手の中国遠洋運輸は、既にロシアの砕氷船と北極圏航路を航行し始めている。今年6月には、ロシア国営原子力企業のロスアトムと中国の洋浦良恩海運有限公司が、北極海航路を利用した通年のコンテナ輸送契約を結んだ。 中国はノルウェーなどと同じように、北極圏の海底資源にも大きな魅力を感じている。いずれの国の管轄権も及ばない深海底の資源開発を管理する国際海底機関(ISA)は、早ければ25年にも北極圏の深海底資源の採掘許可を出し始める可能性がある。 中国は北極圏での長期的な情報収集活動にも意欲を見せていると、スバールバルの知事特別顧問を務めるヨン・フィッチェ・ホフマンは言う。「中国は長期的なスパンで活動しており、今後どのように影響力を拡大するつもりか分からない。ただ、とてつもない情報収集能力がある」 ホフマンによると、中国関係者(国と直接結び付いているとは言い切れないことが多い)は、スバールバル諸島で最大の町であるロングイェールビーンで、不動産を購入したり住宅建設を提案したりして、中国の存在感を高めようとしている。 だが、ノルウェー政府がスバールバル諸島の重要インフラの管理を強化し、外国人への売却を制限する政策を取ったため、この領域での中国の試みは失敗に終わっている。 米政府はこうした状況を、指をくわえて眺めているわけではない。ホワイトハウスは22年にまとめた「北極圏国家戦略」で、中国進出への懸念を明記している。23年には米国務省が、10年近く閉鎖されていたトロムソの外交拠点を復活させた。 今年1月には米国土安全保障省が4600万ドルを投じて、アラスカ大学アンカレジ校に北極圏イダルゴセンター(ADAC)を設置。3月には、同省のディミトリ・クスネゾフ科学技術担当次官がカナダ政府の科学顧問と共にスバールパルを訪問し、最新情報を交換した。