「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も
「それが中国流のやり方だ」
スバールバル諸島での研究が軍事利用される可能性を示唆する状況証拠は既にある。CRIRPのもう1つの共同研究パートナーである解放軍理工大学の楊昇高(ヤン・ションカオ)は、スバールバルと南極基地のデータを使ってミサイル誘導技術の研究を行っている。 「電離圏の電場に変動が生じてもICBM(大陸間弾道ミサイル)が意図した弾道を確実に保持できる正確な誘導」を行うために、レーダー信号に対する「電離圏の擾乱の影響をよりよく予測し、軽減することは可能だ」と、楊は論文で述べている。 本誌の取材に回答したノルウェーの専門家は、現状をあまり懸念していないようだ。 「CRIRPがCETC傘下の研究機関であるという調査結果を疑う理由はないが、スバールバル諸島の研究主体としてRiSに登録されているのはあくまでCRIRPだ」と、ノルウェー極地研究所のガイド・ゴトスは言う。 「彼らはどこをどう見ても、合法的な研究機関だ」と語るゴトスは、スバールバルにレーダーを設置している別の研究機関、欧州非干渉散乱(EISCAT)科学協会にもCRIRPが関与していると指摘した。 このレーダーはノルウェー、スウェーデン、フィンランドの観測所ネットワークに接続し、CETC傘下の別の研究機関がEISCAT_3Dという巨大な新型レーダーのために3万個のアンテナを供給している。 スウェーデン当局は安全保障上の理由から、EISCAT科学協会を北欧諸国だけの組織に再編成する作業に着手した。この新組織にCRIRPは加わらない見込みだ。 教育研究省が所轄するスウェーデン研究会議のマリア・タベソン事務局長は、EISCAT_3Dのアンテナは中国製だが、他の重要部品は北欧諸国の製品だと、本誌にメールで回答した。 衛星も軍民共用研究への懸念が大きい分野だ。ノルウェー通信庁(Nkom)によれば、防衛関連企業の深圳航天東方紅衛星を含む少なくとも中国企業9社の衛星が地上局のスバールバル衛星ステーションで運用されている。 深圳航天東方紅衛星など3つの中国系機関が運用する超小型衛星には、軍事目的のデータ伝送を禁じる規則への違反は認められなかったと、Nkomのカイ・ステファン・オステンセンは語る。 目的は「北極圏の地球観測と北極航路の船舶へのサービス」であり、「軍民両用の運用」に関与するオーナー企業が含まれていても、使用禁止にはならないという。 ノルウェー外務省のマリケ・ブルースガールド・ハービッツ報道官は、中国が北極圏の船舶で衛星を利用している可能性についての質問に対し、「ノルウェー当局は北極圏での活動を注視している」と答えた。 北極圏で中国の動きが目立つ場所はスバールバル諸島だけではない。米ロが国境を接するベーリング海峡のすぐ北のチュクチ海では、軍との関係が強いハルビン工程大学の科学者が潜水艦の安全航行に不可欠な水中音響の研究を行っている。 中国はアイスランドでも研究活動を行っている。中国極地研究センター(PRIC)は18年、現地のパートナーと共に中国・アイスランド北極科学観測基地を開設。レーザーで目標との距離を測定する技術などを使い、上層大気や宇宙空間を監視・研究している。 「なぜ中国が北極圏に興味を持ってはいけないのか」と、フリチョフ・ナンセン研究所(オスロ)のゲルン・へッゲルントは言う。「彼らは北極圏の変化が中国自身にどんな影響を与えるかに強い関心がある」 一方、トロムソにあるノルウェー北極大学のマーク・ランテイン准教授(政治学)は、中国の軍民両用研究を北極圏の「主要な懸念」と呼んだ。 「中国の科学的関心やプロジェクトは戦略的・軍事的発展のために利用される可能性が高い。もちろん、ここの情報は中国軍に送られるだろう。それが中国流のやり方だ」 中国の科学研究にとっての北極圏の重要性は、政府系研究機関の出版物に明記されている。「北極圏には、北米と北ヨーロッパと北アジアを直線で結ぶ最短ルートがある。 従って、北極圏における戦略的な位置付けが重要になってきた」と、PRICの機関誌「極地研究」に掲載されたある論文は指摘している。