「それが中国流のやり方だ」北極圏でひそかに進む「軍民両用」研究の実態...ロシアとの接近、核持ち込みの懸念も
軍事研究に特化した実態隠す
中国はこうした規制に異議を唱えたことがある。中華民国時代の1925年に加盟したスバールバル条約を盾に、この諸島における「研究調査の自由」を認めよとノルウェー政府に迫ったのだ。 ノルウェーは気候など自然科学と一部の文化遺産の研究に限り、外国人研究者の活動を認めるという立場を崩していない。 白夜の季節が終わり、4月末に中国人の先発組3人が黄河基地に到着した。基地を率いる胡正毅(フー・チョンイー)は国営英字紙チャイナ・デイリーに、自分たちの任務は「雪氷学、地上と海洋の生態学、宇宙空間物理学分野の研究と運用調査」だと語った。 宇宙空間物理学は中国電波伝播研究所(CRIRP)が力を入れる分野だ。ノルウェー政府スバールバル研究管理部門(RiS)の公式サイトは、CRIRPが2030年までスバールバルで取り組む2つの研究を紹介しているが、CRIRPの名称だけでは組織の実態は分からない。 本誌はCRIRPが中国最大の国有の軍用エレクトロニクス複合企業・中国電子科技集団(CETC)傘下の研究所であることを突き止めた。この研究所はCETC内では第22研究所と呼ばれているが、公式サイトに掲載された写真などからCRIRPであることが確認できた。 それによれば、第22研究所(すなわちCRIRP)は1963年に軍事目的で設立され、水平線の向こうの物体を捕捉できる「超水平線(OTH)」レーダーの国産化に向けた技術開発をリードしてきたという。 昨年、創立60周年の記念式典で陳欣宇(チェン・シンユィ)所長は「軍事力の強化」を主要な研究目標の1つに挙げた。陳は研究所の党組織を率いる党書記も兼務している。 CETCのウェブサイトによれば、習近平(シー・チンピン)国家主席がトップを兼務する党中央軍事委員会も他の軍事機関と共にこんな祝賀メッセージを送って称賛した。「(CRIRPは)軍需産業における主要な責任を堅持し、中国の国防近代化と総合的な国力向上に重要な貢献を果たした」 安全保障関連の公開情報の収集・分析サイト「データアビス」(米オハイオ州)や本誌の調査によると、CRIRPは人民解放軍の13の部隊と協力している。 例えば海軍92941部隊とは「海洋環境における死角領域でのレーダー探知」について、中央軍事委員会連合参謀部61191部隊とは「宇宙目標監視レーダー」について協力した。 RiSのサイトに掲載された研究内容によると、CRIRPは宇宙天気、オーロラ、電子を含む大気圏と電離圏の観測を行っている。いずれも攻撃目標の捕捉・追尾・特定に重要なデータだと、専門家は言う。 ある中国人研究者が匿名を条件に本誌に語ったところでは、黄河基地に設置した機器を使って中国国内の研究チームが分析を行う「リモート研究」も行われているという。 「気象観測から原油や天然ガスのボーリング調査、レーダーの秘密研究まで、あらゆることをやっているというのが私の評価だ」と、データアビス(米国防総省の資金援助を受けている)の創設者LJ・イーズは言う。 「中国人民解放軍に貢献していない環境・大気研究もあるが、問題は軍民両用研究だ」