「3割が60歳以上」「子どもには勧めない」 消化器外科医が激減! がん患者が行き場を失う未来も
若手が避け、ベテランも逃げ出す消化器外科
その減少の理由は、若手人材の供給が滞っていることだけではない。 「驚いたのは毎年、退会者の半数を超す450人以上が65歳未満だったことです。キャリアの途中で『もうやってられない』と消化器外科から離脱したのだと思われます。おそらく他の科、たとえば内科に転じるなどして開業する道を選んだのでしょう」(藤井教授) 若手が避け、ベテランも逃げ出す消化器外科。人材不足の影響は、とりわけ地方で顕在化している。 「若手医師は都市部に集中し、地方には残りません。東京には細分化された診療科ごとに専門医が大勢いるので、自分の専門以外の治療をする機会はさほどありませんが、地方の医師は『何でも屋』にならざるを得ないのです」(同) 本来ならば消化器内科が担うはずの抗がん剤治療や内視鏡治療をはじめ、救急医がすべき救急医療、さらに医療過誤や事故を防ぐ安全管理、感染症対策、はては栄養管理まで……。病院運営に関わる業務全般を、消化器外科医はしばしば背負い込まされるのだという。 「私の専門は膵臓ですが、だからといって『膵臓の手術しかやりません』などとは、とても言えません」 と、藤井教授。医師の地域偏在は以前から厚労省でも問題視されてきた。04年から新しい臨床研修制度がスタートし、研修医は基本的に自由に研修先を選べる(希望を踏まえて病院とのマッチングが行われる)ようになった。その結果、彼らが都市部に集中し、地方の医師が不足する状況が生じたのである。 卒業後も地域の病院に残ることなどを条件に入学させる医学部の「地域枠」や、研修病院の募集定員の設定など、厚労省も手を打ってはきたものの、今なお偏在は解消していない。
アルバイトの時間も確保できず
大学病院は市中病院に比べて基本給が低い上、消化器外科医は常勤で過重な長時間労働を強いられるため、他の科の医師のように割のいいアルバイトをする時間を確保しにくい。そこに医師偏在も相まって、“三重苦”にあえいでいるのが大学病院の消化器外科医なのだ。 「試みに各学会の事務局に問い合わせたところ、00年以降、内科、循環器、呼吸器、脳神経外科、泌尿器科など、いずれも会員数を増やしていました。特に麻酔科は81%で内科は48%、形成外科も45%と、急増といっていい数字です。一時期、医師が減って赤ちゃんが産めなくなると騒がれた産科婦人科も8%増。その中で消化器外科だけが、数を減らしている。実に11%の減少でした」(藤井教授) きたる高齢化に対応すべく、日本では08年度から医学部定員を増やした。その結果、医師の数は当時の約29万人から現在、約34万人まで増えている。それなのに消化器外科医は減少の一途だというのだ。