牛乳の2割から鳥インフルを検出、米国で乳牛に感染が広がる、安全性を専門家に聞いた
牛乳の汚染は心配すべきか
FDAは4月下旬、米国内の市販向け牛乳の供給はまだ「安全」と考えられるとの声明を発表した。なぜなら、牛乳は低温殺菌処理を施されているためだ。また、病気のウシから絞れられた牛乳は、念のため廃棄処分されている。 米農務省はウイルスのさらなる拡大を防ぐために、国内に800万頭いると推定される乳牛全頭に対し、州境を越える際にはH5N1の検査を行うよう義務付けている。 また、ウェビー氏と協力する米オハイオ州立大学の研究者チームが実施した市販の乳製品150品以上を対象とした検査では、「集めたサンプルの約40%」からウイルスの粒子が発見されたと氏は言う。 陽性の試料と比較するための陰性対照(ウイルスが含まれていない)試料をチームに提供しようと、ウェビー氏がメンフィス市にある地元のスーパーマーケットで牛乳を1瓶購入したところ、その中にもウイルスの粒子が含まれていたことに驚かされたという。この例からも、乳製品の汚染がどれだけ広がっているかがわかる。 ただし、さらに詳しい検査を通じて、低温殺菌処理によってウイルスが実際に不活性化されているとわかり、そのためウイルス粒子が牛乳に入っていても危険はないことが確認されている。「その牛乳はまだうちの冷蔵庫にありますし、私は今もそれを飲んでいます」と氏は言う。 一方で、低温殺菌処理をしていない牛乳は事情が異なる。「まだ実例は見つかっていませんが、もし低温殺菌処理をしておらず大量のウイルスが含まれた牛乳を飲んだ場合、その人は感染する可能性が高いでしょう」と氏は言う。「そのため、低温殺菌処理をしていない牛乳を飲むことについて、わたしは現在、非常に大きな懸念を持っています」
人間への影響は
米疾病対策センター(CDC)によると、2024年に米国内でH5N1のヒトへの感染が1件だけ報告されており、その人物は感染したウシの近くで仕事をしていたという。症状は、結膜炎を中心とするごく軽いものだった。 2022年には、別の米国人1人がこのウイルスに感染しているが、当時はまだウシへの感染は発見されておらず、おそらくは家禽の近くにいたことが原因だったとみられている。米国内でヒトへの感染が確認されたのは、今のところこの2件にとどまる。 CDCによると、ヒトへのH5N1の感染は一般に、活性ウイルスを含んだ飛沫やエアロゾル粒子を吸い込んだり、「ウイルスに汚染されたものに触れた人が、自分の口、目、鼻に触れた場合」に起こるという。 そのため、現時点で最も行動に注意を払うべきは、感染したウシを扱う可能性がある酪農家と、低温殺菌処理をしていない牛乳や乳製品を摂取している人たちだとウェビー氏は言う。 ただし、状況が変わる可能性もあると氏は述べている。なぜなら、このウイルスは長い間、感染する対象が鳥に限られていたため、ウシへの感染をきっかけとして、より感染性の高い変異が生じるかもしれないからだ。 「今のところ、これは鳥に感染するウイルスと言ってよく、鳥の体内での増殖を好みます。しかし懸念されるのは、このウイルスはこれまで主に鳥の中でしか複製してこなかったため、よりヒトに感染しやすく変化する圧力が存在しなかったという事実です」と氏は説明する。 「しかし、こうしてウイルスが哺乳類に飛び火した今、理論的には、ヒトを含む哺乳類により感染しやすいように変異する機会が増えたことになります」 とはいえ、そうしたことが起こらない限り、また一般への牛乳の供給が安全でないと判断されない限りは、警戒する必要はないと氏は言う。「今のところ、ウシの間で広まっているウイルスの方が、約30年にわたって鳥の間で広まっていたものよりもヒトに感染しやすいという証拠はありません。そして、ヒトへの感染リスクが非常に低いことはすでにわかっています」
文=Daryl Austin/訳=北村京子