<内部調査>北朝鮮住民の暮らしはどうなっているのか(2) 無料教育制は風前の灯火 意外にコンピューターは学校に広く普及
今年3~5月、北朝鮮北部地域に居住する3人のアジアプレス取材協力者から北朝鮮住民の日常を把握するために最近の状況を聞いた。生活の基礎であるインフラから教育、医療、文化に至る社会状況を紹介する連載の2回目は、教育について報告する。(チョン·ソンジュン / カン·ジウォン) 【北朝鮮写真特集】 秘密撮影された動員される女性たちの姿(10枚)
◆無料教育は昔話、重くなる親の費用負担
北朝鮮では無料教育が原則だ。しかし1990年代以後、経済難で教育に対する国家支出が急減し、教育費の相当部分を学生と保護者が「税外負担」として支払わねばならなくなった。教科書や学用品も、ほとんど自己負担しなければならない実態は、今も改善されていない。 ※北朝鮮は「税金制度のない国」を標榜してきたが、予算不足のため実際には様々な場面で、「税金ではない」建前のもとで支出を求められている。 両江道(リャンガンド)の都市部で、学校に通う子どもを育てている取材協力者C氏。教育費が大きな負担になっている事情を伝える。 「今、子どもを育てるためには、月謝のように毎月お金がかかります。うちの子の場合、月に中国のお金で70~100元程かかります。最近は(学校生活と関連した)動員から抜けるためにもお金を払わなければなりません」 ※中国1元は北朝鮮約1,850ウォン(約22日本円)。2024年6月時点で、米1キロは約7200ウォンで取引きされている。 また協力者は、教育に対する国の予算の不足分を保護者から充当していると指摘した。 「学校に必要なものが(国から)きちんと供給されていないので、多くの場合、保護者を通じて解決しようとします。学用品もすべて自分で購入しなければなりません」
◆国は秀才教育を導入、新しい不平等の量産
これまで北朝鮮では、高級中学校(高校に相当)で推薦を受けた生徒だけが大学入学試験の受験資格を得ることができた。大学進学には、出身成分だけでなく両親の地位や経済的条件なども影響するため、推薦を受けるために賄賂が盛んになるなどの「副作用」が生じていた。 2022年、金正恩政権は大学進学を奨励し、優秀な人材を育てるための秀才教育を積極的に導入することにした。これを受けて、全ての高級中学卒業予定者に大学入学試験の受験資格を与え、成績に応じて誰でも進学できるようにする政策を打ち出した。 協力者は、近年の状況について次のように述べる。 「秀才教育によって、これからは出身に関係なく誰でも大学に行けると言っています。けれどその恩恵を享受する人々は、結局(秀才クラスに入れるように)家庭教師をつけたり、参考書を買ったりと、教育にお金をかけられる権力層の人たちです」 一方で、生活が困窮し、子どもが街を転々としながら物乞いするような家庭もある。学校で登校調査をして、子供を学校に行かせない親を処罰するほど両極化が深刻化していると協力者は言う。 「学校で生徒たちがきちんと登校しているかを調査して申告し、子どもを放置する親を『労働鍛錬所』へ送った事例もあります。取締まりと統制を厳しくしても、生活が苦しいので街をさまよう子どもが大勢います」 ※労働鍛錬隊 社会秩序を乱したり、当局の統制に従わなかったりした者、軽微な罪を犯した者を、司法手続きなしに収容して1年以下の強制労働に処する「短期強制労働キャンプ」のことをいう。全国の市・郡にあり、安全部(警察)が管理する。