ウルフアロン五輪連覇へ 試合が長引くほど強さを増す「ウルフタイム」のルーツとは?
延長戦にこそ強い 〝ウルフタイム〟を 培った場所
――最初に効果を実感できたというベンチステップに関してですが、負荷はかけていましたか。 ウルフ 自重で始めて、慣れてきたらボールを持ったり20㎏のベストを着たり、ちょっとずつ負荷をかけるようにしました。ダンベルやバーを担ぐやり方もありますが、どうしても硬い力になってしまうので、できるだけ重心がぶれるようなボールやベスト着用でやっていました。柔道は相手が人間だから、常に重心を捉えにくいなかで戦うので。 ――今回見せていただいたトレーニングでも、不安定なバランスボードの上でスクワットやランジを行っていましたね。 ウルフ あれも完全に試合での重心のぶれをイメージしてやっていますね。結局、僕たち柔道選手がトレーニングをする一番の理由は、柔道の競技力を向上させるためなので、〝トレーニングのためのトレーニング〟にならないように、自分の柔道スタイルにとってどういうトレーニングがいいのかを考えながらやっていかないといけない。僕の場合は、やはり「粘り強さ」が持ち味でもありますし、それを発揮する上でもバランスが重要になってくるんです。
――試合でトレーニングの成果を実感できるようになってきたのはいつぐらいからですか。 ウルフ やり始めてすぐに実感できたところもありました。特に、試合でゴールデンスコア(GS)に入るなど、試合時間が長くなればなるほど粘り強さが出るようになってきましたし、それが実感できることによって自信にもつながっていきましたね。 ――東京オリンピックの決勝もまさにGSの末に得意の大内刈りで一本勝ち。延長戦での無類の強さは〝ウルフタイム〟と話題になりましたが、その一助にサンプレイの存在も? ウルフ そうですね。そこに関しては逆にサンプレイなしには語れないと思います。決して中村(定雄チーフ)トレーナーを喜ばせたいわけではなく(笑)。
勝ちたい相手に 勝つべきタイミングを いつも考えている
――アスリートにとっては狙った大会や試合に向けてのピーキングも、結果を出すために重要だと思います。ウルフ選手は膝の負傷などもありましたが、東京オリンピックにしっかりピークを合わせることができましたか。 ウルフ 勝つことができたから、成功したということになるとは思いますが、ピークに合わせられたぞというより、終わってみたら調子が良かったなという感じでした。こうしなきゃピークに持っていけないと決めすぎたり、考えすぎたりするタイプではないので。 ――中村トレーナーは「知っている選手のなかで一番考えているうちの一人」と言っていましたが。 ウルフ 考えるからこそ選択肢を多く持っておくという感じでしょうか。みんな一度決めたらそこにこだわりがちだけど、僕の場合はある程度大雑把な太い道があれば、ちょっとぐらい逸れても前には進んでいけるという考え方です。逆に、決めすぎることが自分にとってのストレスになってしまうようなところはありますし、もしそういうタイプの選手だったら、オリンピックが1年延期になった時点で潰れていたと思います。 ――中村トレーナーはウルフ選手について「他の選手がもう1週間しかないと言うところを、あと1週間あると考えられる」「試合で負け続けても、自分が勝ちたい試合にだけ勝てればいい」といったマインドが最大の強みとも評していました。 ウルフ たしかに、試合前だからといって焦って詰め込んだりはしないですね。練習でやった以上のことは試合では出せないので、慌てて準備してもあまり意味がないというか。プラス、やっぱり大事なところで勝つことが一番大事なので、勝ちたい相手に勝つべきタイミングも考えています。とはいえ、けっこう大まかだったからこそ、今回もギリギリになってやっと(五輪代表に)決まった感じではあったんですけど。