【佐久間宣行×三宅香帆 特別対談】20万部超えベストセラーを生み出した二人の仕事術、共通点は?
ヒット作を作るためには世の中への伝え方も大切
三宅 いろいろと合点がいきました。現代は、コンテンツをヒットさせるには世の中への届け方も重要ですが、佐久間さんはそこも丁寧だなといつも思います。 SNSは忙しいとおざなりになりますが、佐久間さんのXを見ると「こんなに忙しい佐久間さんもちゃんと告知してる……」と、やる気をいただいています。 佐久間 特にフリーランスになってからは「適切な納品(〆切)と告知が大事だ」と教わりました。 三宅 納品と告知! ちなみにSNSの運用に関して、ご自身なりのルールやルーティンはあるのですか? 佐久間 告知とともに市場調査を兼ねて、番組名でエゴサしますね。 「こういう告知の記事だとシェアされやすい」とか「バズりやすい」といったことは肌感覚でわかっておいたほうがいいし、把握できていないとズレていく気がして。 時にはヘコむポストを目にすることもありますが、それ以上にYouTubeのサムネイルのタイトル決めなどに役立ったり、得るものも多い。 YouTubeを始めた2021年の頃は、内容が面白ければ観てもらえる気でいたのですが、サムネイルの段階である程度の面白さが伝えられないと観てはもらえないし、テレビともラジオとも視聴者層は大きく乖離していることも知りました。 だから集中してYouTubeの作戦を練り直した結果、「地上波を知り尽くした上で、地上波では流せないふざけた企画を本気でやる」というコンセプトに。今では、チーム全員のグループLINEとは別に“サムネ検討用”のグループを作っているほどです。
やりたい仕事で結果を出すために作戦を練る
三宅 私は書き手として、媒体によって自分で記事のタイトルやサムネイルを考えることもあれば、ノータッチのこともあるんです。 たとえば「気合い入れて書いたのに、意外と読まれてないな」と思うとき、原因のひとつにサムネイルやタイトルがあったかも、と一人で考えることもあります。 佐久間さんは『ごきげんになる技術』で「自分で仕事する場合も、誰かに仕事を託す場合も、できるだけ仮説検証を仕組み化する」という旨を書かれていましたが、そこもすごく参考になりました。 悩むより仮説検証しなきゃな、と。とくに他人と仮説検証を共有できると、いろんな人の視点が加わり、表現の面白さに幅が広がりそうで、人材も育つし、いいことづくめだと思いました。 佐久間 「テレビ東京」って、他局に比べて小さい会社だからプロモーションが圧倒的に弱いんです。少ないリソースでいかに番組を話題にするかを深く考えていたので、結果的にそれがフリーランスになってからも役立っているなと。 後輩のディレクターで「ReHacQ-リハック-」を立ち上げた高橋(弘樹)さんや上出(遼平)さん、タレントになった森香澄さんなど独立勢はだいたいそうですね。メインストリームの会社出身ではないからこそ綿密な作戦を立てるのがとても上手い。 三宅 テレビの世界でも、いまは個人で戦える人が強いということでしょうか。 佐久間 相対的にメディアが弱体化しているから、少ないリソースを有効利用できる人や、誰も登っていない山を目指した人のほうがうまくやっているかもしれません。アニメ以外は王道の戦い方が無くなってきている印象ですね。 僕の場合は30代前半で「自分らしい仕事のやり方」を見つけましたが、三宅さんは、年齢的にも早い段階から道を定められてますよね。そもそも文芸評論家の道を選んだきっかけは何があるんですか? 三宅 本が大好きで文学部に入ったというと、「作家やエッセイストにはならないんですか?」とよく聞かれます(笑)。 ただ、創作物に関しては、すでにこの世に素晴らしいもので溢れているので、読んでも読んでも追いつかないくらいなんです。 でも、創作物を語る言葉については「こんなに素晴らしい作品なのに、まだ全然うまく語られていない」とフラストレーションをためることが多くて。昔からよくそう思っていることが、自分の評論の原点かなと。 理系出身の両親からは「文学部だと就職は厳しいんじゃない?」と言われていたし、本の世界は斜陽産業だと物心ついたときからニュースで言われていた。 そのため「自分が好きな本の世界と関わっていくには、戦略を考えないといけないっぽいぞ」と高校生くらいから考えていました。 23歳の時に書評家という肩書きで本を出版し、今に至るまで書評や文芸評論の分野でやってはいますが、書きたいものがニッチだし、そもそも書店の書評ジャンルの棚にはお客さんがあまりいない。 「本を読まない時代に突入しているのに、本の紹介なんてニーズは無いに等しいだろう」と普通に思いますよね。つまり、好きなことややりたいことは明確だったけれど、いかんせん市場がないところからのスタートでしたね。 佐久間 なるほど。書きたいものはあるから、どうやって取っ掛かりとしての“取っ手”をつけるか? だったんですね。 三宅 どんな取っ手をつけて、読者に見つけてもらうか、今もずっと考えています。一方で同世代の書き手がそこまで多くないジャンルだったから、新しい道を作れたのかな、とも思います。 実は最近、フリーランスとして一人の力だけで仕事をすることに限界も感じてもいて……。仕事で関わる人たちに「この人のために本気で頑張ろう」と思っていただくにはどうしたら? と悩んでいます。