観光交通で注目の「グリーンスローモビリティ」、国内事例を専門家が解説、世界遺産エリアや温泉地など【コラム】
【事例2】島根県大田市:キラーコンテンツへの足を確保
次の事例は、石見銀山遺跡がある島根県大田市大森地区。世界遺産登録当時、多くの観光バスや乗用車が押し寄せ、住民の地区内交通が不便になるほど渋滞等が問題になったことから、住民の合意によって常時公開している坑道・龍源寺間歩のある銀山地区への路線バスおよび観光客の乗用車での進入が禁止されました。中止後は、駐車場から銀山入り口の龍源寺間歩まで片道約2キロの道のりを、徒歩またはレンタサイクルで移動することになりました。 もっとも、地域にとっては、苦渋の決断でした。多くの観光客に銀山を訪れてほしいという想いはあるものの、移動手段が自転車と徒歩に限定されてしまったために、身体的に往復4キロの移動が難しい観光客の訪問を厳しくしてしまう側面があったからです。 どうすれば、住民生活と調和する形で、多様な観光客の方を受け入れることができるのか。徒歩と自動車の間の大森地区にふさわしい乗り物はないのか。答えが見つかるには10年もの月日を要しました。そしてついに、グリーンスローモビリティ「ぎんざんカート」が、大森地区内の新たな観光客の回遊手段として住民の方に認められたのです。 ぎんざんカートは、毎週水曜日を除き、毎日運行しています。1日12~14便、運賃は乗車区間に応じて1回100~500円。運営主体は大田市、運行は「レンタサイクル河村」がおこなっています。レンタサイクル河村は、以前はガソリンスタンドを運営していましたが、閉業後、電動自転車等のレンタサイクル事業を展開していたところ、グリスロの運行も担うことになりました。ガソリンからEVへ。まさに時代の変化を体現しています。 ぎんざんカートは、観光客の乗車が多いモビリティですが、住民も乗車できます。「ぎんざんカートがあるから、免許を返納する」とおっしゃったお父さんもいたそう。大人気のため、満席で乗れない場合も少なくありません。 満員の場合はレンタサイクルを利用するか次の便まで待つようにとの案内はありますが、根本的な解決に向けて、大田市では将来的に、2台目のカートには運転手が乗車せず、電子制御で1台目についていくグリスロ車両牽引を検討しているようです。日本初のグリスロ版カルガモ走行は可能となるのか、注目しています。