【シリア問題の基礎を学ぶ】この国が世界を揺るがす理由…ロシア、イラン、イスラエル、米国、トルコはどう関与
■ シリアめぐるトルコと米国の微妙な関係とは アサド政権の崩壊によって、中東情勢はさらに混迷を深めると予想されます。 シリアの北に隣接するトルコには、シリア内戦によって多くの難民が流入しました。トルコは、難民を増やし続けるアサド政権に業を煮やしてきたのです。そのため、トルコはHTSなどシリアの反政府勢力を支援してきました。ただ、シリア国内の反政府勢力のうち、クルド人勢力の「クルド民主統一党」とは対立しています。 クルド人はトルコやシリア、イラクなどにまたがる広大な土地に居住し、「国を持たない最大の民族」とも言われています。しかし、トルコ政府は「トルコからの独立」を掲げるクルド人勢力と激しく対立してきました。そのため、「反アサド」であるとはいえ、シリア国内のクルド人勢力の支援はできなかったのです。 アサド政権崩壊を受けて、トルコはすぐ、シリア国内にあるクルド人勢力の軍事拠点を空爆しました。そのクルド人勢力の軍事組織には、米国が支援を続けています。トルコも米国も北大西洋条約機構(NATO)の一員。NATOの加盟国同士がシリア国内では対峙するかたちになっているのです。
■ イスラエルがシリア領内に進軍した理由は シリア南西で国境を接するイスラエルも動きました。アサド政権崩壊後、シリア国内の混乱をにらんで軍をシリア領内に侵入させたのです。イスラエルは、1967年の第3次中東戦争で占領したゴラン高原について「永遠にイスラエルの不可分の領土であり続ける」と強調。国連の監視下にある緩衝地帯に進軍し、緊張を高めています。 イスラエルはさらに、アサド政権軍の保有するミサイルや化学兵器などがシリア国内の反体制派に流れることを許さないとして、政変後、シリア各地での空爆を続けています。すでに空爆は約150カ所に及び、海軍施設や艦隊も破壊。アサド政権軍の軍事力の約8割を破壊したと表明しています。 一方、大国はどうでしょうか。ロシアはアサド大統領の亡命を受け入れたものの、反政府勢力の政権奪取に対しては介入する構えを見せていません。ウクライナ戦争に注力する姿勢です。 米国のバイデン大統領は独裁政権の崩壊について「米国によるクルド人勢力支援の成果だ」として歓迎の意向を示しました。しかし、トランプ次期大統領は「われわれの戦いではない」として、深入りを避ける構えです。