「求められるスキルも変化している」。リスキリングを通じて、新しいチャンスを手にする人たちがイノベーションを生み出す
多様な人材を活かし、一人ひとり能力を発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出す「ダイバーシティ経営」
―企業が人的資本経営の実践を進めるにあたり、多様な人材の能力が発揮されることで企業にもたらす影響について、どう捉えていらっしゃいますか。 ■神野さん■ 経済産業省では、人的資本への注目の高まりといった潮流も踏まえ、多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営を「ダイバーシティ経営」と定義し、企業における取組みを推進しています。 ここでいう「多様な人材」というのは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。 ▼西村さん▼ 今回のテーマであるキャリア採用の方々も、まさに「多様な人材」が意図しているところに含まれますね。 ■神野さん■ はい。そのような多様な人材が活躍することで、期待される企業の価値創造に関する効果の一例として、①プロダクト・イノベーション(商品・サービスの開発・改良等)、②プロセス・イノベーション(生産性の向上等)、③外部評価の向上(優秀な人材獲得等)、④職場内の効果(社員満足度の向上等)等が知られています。
労働移動の円滑化やリスキリング等を通じて、働く人が成長や自己実現をしやすい環境を社会全体で創っていく
―多様な人材が活躍していく社会を作っていくためにも、改めてリスキリングの重要性が高まっていると思うのですが、企業側にはどんなことが求められているのでしょうか。 ●小澤さん● リスキリングは言い換えると能力の再開発のことで、それ自体は今に始まったことではありません。現在その必要性が急速に高まっているのは、構造的な人手不足により、企業側の人材確保が今後ますます厳しくなる中で、企業における最適な人材再配置と労働生産性の向上がこれまで以上に急務となっているからだと捉えています。 ▼西村さん▼ DXやGXなどにより産業構造が変わり、さらに国際政治情勢や技術の進歩も相まって企業の経営環境は目まぐるしく変わってきていますよね。 ●小澤さん● そうですね。当然、従業員に求められるスキルもどんどん変化していくわけですが、一般的なOJT研修は、配属後に上司や先輩から過去の経験上の対応を学ぶものであるため、それだけでは予測不可能な変化への対応が難しくなります。DXやGXはいわば課題解決のためのツールであり、それらを実現するための人材を育成する手段こそがリスキリングです。 ■神野さん■ リスキリングを通じて、変化の荒波に対応できるスキルを身に着けた人材が企業価値の源泉になるとも言えますね。 ●小澤さん● はい。そのためにも、企業は経営戦略と人事戦略を連動させる人的資本経営を実践し、従業員に対して「なぜ学ばなければならないのか」「学んだ結果はどう活かされるのか」等を明確に示した上で、戦略的にリスキリングを促す必要があります。同時に、従業員が将来を見据えて自律的にキャリアを形成できるよう、それぞれの過去の経験やスキル、キャリア上の意向、強い意欲をもって取り組める学習領域などを理解するプロセスが重要であり、丁寧に支援することが企業側に求められます。 ■神野さん■ 一方、従業員個人に着目すると、特に若い世代のキャリアに対する考え方に変化が生じているという調査結果が多く見られます。自己実現のためにスキルを高め、よりよいキャリアを歩みたい。会社任せではなく、それぞれの個人が自律的にキャリアを考える傾向が強まっている証拠だと思います。労働需要が変化する中で、若い世代を中心に自律的なキャリア形成への志向が強まると、これまでのように企業だけではカバーし切れなくなります。個人のリスキリングを企業だけに任せるのではなく、社会的にも支援していく必要があります。 ▼西村さん▼ 社会的な支援については、経済産業省で新たな取組みを始めていますね。 ●小澤さん● そうですね。経済産業省では現在、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」という基金事業を執行しています。在職者個人を対象に、キャリアの棚卸しとキャリアゴールを設定する「キャリア相談」から、キャリアアップに必要な「リスキリング」、リスキリングを踏まえた転職相談・職業紹介といった「転職支援」まで、まさに入口から出口までを一体的に支援するのが特徴です。 対象者も、正社員や契約社員、派遣社員、パートやアルバイトと幅広く、キャリア相談や職業紹介は全て無料です。リスキリングについても、対象講座はIT、AI、経営、税務、会計、介護福祉等と多岐にわたっており、その受講費用は最大70%、最大56万円が補助される仕組み(実際に転職し、その後1年間継続的に転職先に就業していることを確認できる場合)となっています。 ■神野さん■ 個人のリスキリングを企業だけに任せるのではなく、社会的にも支援していこうという趣旨から、本事業はキャリアの自己実現に向けて一歩踏み出そうとする個人を後押しすることで、社会全体で見ればリスキリングの機運醸成と労働移動の円滑化を同時に進め、最終的には構造的な賃上げを実現することを目的としているんですよね。 ●小澤さん● そうですね。実際に、製造業の派遣社員だった20代の女性が、本事業の支援により、雇用形態を変えて安定的な業界で働きたいというキャリアゴールを定め、インフラエンジニアのリスキリングを受講し、大手企業のデータセンターの運用・保守の正社員として転職し、年収もアップしたという成功事例も出ています。 このように未経験であっても飛び込むチャンスは大いにあります。人的資本経営の実践により、企業側もスキルベースの採用、スキルベースの人材配置が今後増えてくることでしょう。こうした成功事例は今後増えていくものと信じています。
【関連記事】
- ◆#1◆1年間の「キャリア採用者」は約500名!新たな風を吹かせ、変革を進めるMUFGの組織風土に迫る 【ダイバーシティ経営とキャリア採用】
- ◆「ここ30年で働き方を取り巻く環境は大きく変わりました」変遷期を乗り越えてきた各分野の女性リーダー4名がダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)について語り合う
- ◆世界情勢不安の中「多様性のありかたをわが子にどう教える?」私たちの手で日本をよくするには
- ◆「日本はまだまだ、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)を進める余地が残っています」MUFGと経産省が語る「多様性の現在地点」
- ◆集中力のピーク、実は40代⁉ コンビニで買える、集中力を上げる食べ物とは?【医師が解説】