保健室のタブレットで心の不調をキャッチ 11の質問から命を守る取り組み
「命の危機が迫った子ほど助けを求めない」
「RAMPSの運用を2018年に始めて以来、それまでノーマークだった子がハイリスクだと判明したケースの報告が相次ぎ、驚かされました」 RAMPSを開発した北川裕子・東京大学相談支援研究開発センター特任助教はそう語る。2018年度にRAMPSを利用した13校の利用状況を解析したところ、うつ症状のある子はおよそ6割、自殺リスクの高い「生きていても仕方がない」を選択した子は1割いた。そうした子たちは、家庭環境が不安定だったり、相談相手がいなかったりといった特徴があるケースが多かったが、養護教諭から「問題なく」見えていた生徒も少なくなかったという。 RAMPSはこんな質問を重ねていく。<今日はどうしましたか(選択項目:腹痛、頭痛、吐き気など)><今、どれくらいつらいですか?(0から100までの数値をスライダーで選択)> 心の状態についても尋ねていく。<この2週間、次のような問題に悩まされていますか?「物事に対してほとんど興味がなかったり、楽しめない」><「気分が落ち込む、ゆううつになる、または絶望的な気持ちになる」><これまでに「生きていても仕方がない」と考えたことはありますか?>……。
生徒が回答したデータはRAMPSのシステムで集約されるが、それを見ることができるのは養護教諭や許可された担当者だけだ。また、生徒の異変が判明した時点で学校側がどう動くかは、RAMPS 導入時に養護教諭や校長、担当教員らに決めてもらっていると北川さんは言う。 「リスクの状況は4段階で判定できますが、対応の方針は導入時に考えておいてもらいます。たとえば“リスク4”のアラートが出たときには、教育委員会や保護者に連絡するとか、学校医に連絡するとか。じつは直接生徒に悩みを聞いてみると、彼らのほとんどは答えてくれます。そこで危ない状況にある子に手を差し伸べることができるのです。その兆候を捉えられるのは大きいチャンスだと思います」 北川さんは、学生時代に親しい友人を自殺で失った経験を持つ。 「強烈な体験でした。『じゃあね』と別れたあとで、そんなことになって……。養護教諭に対して『何もできなかったんですか』と憤りを覚えましたし、同じように見過ごしてしまった自分も許せませんでした」