新宿二丁目の“深夜食堂”54年目に閉店を決意ーー名物ママ、りっちゃんが思う人生の引き際 #ydocs
「世界屈指のLGBTQタウン」とされる新宿二丁目。同じく新宿のディープな繁華街、歌舞伎町と比べても、どこか淫靡(いんび)で謎めいた雰囲気に覆われている。元々は新宿三丁目の一角にゲイバーが数軒あったのだが、1968年に新宿二丁目にニューハーフのショーパブがオープンすると、次第に女性厳禁の飲み屋が増加。 【画像】クイン最後の夜、大勢の常連客が店に訪れた 当時の週刊誌が「男たちが集まる隠れ家」として取り上げると、一気にゲイが集まり現在のような街となった。 およそ300軒あるといわれる飲食店はほとんどが個人店。店主たちはバラエティに富み、その店ならではのルールが存在するところも多い。しかし、その魅力を知るとついまた足を伸ばしたくなってしまう。 そんな街の個性あふれる店主たちが一目も二目も置いている存在が、深夜食堂「クイン」の名物ママ・りっちゃん(78)。しかし、2023年9月末、「この街の“住人”ほとんどがお世話になっている」という「二丁目の母」がある決断をした。 クインの53年の歴史に幕を閉じたのだ。
日付が変わった午前0時に開店する深夜食堂「クイン」の魅力とは?
「チンチンチーン」 りっちゃんのビール瓶を栓抜きで叩く乾杯の音頭は、この店お決まりの儀式。この音を聞くためだけにビールを頼む客も少なくない。 りっちゃんとビールを酌み交わすと、次第に酒盛りが始まる。ツマミとなるのは、仕事や人間関係の悩み。りっちゃんからは優しいアドバイスだけでなく厳しい叱咤激励も飛んでくる。 また、40年来の常連客は「スマホもアプリもなかった時代、新宿二丁目の中心に位置するクインは街の情報源だった。飲み代が払えず、お金を貸して欲しいと泣きついてきた客に『出世払いだ!』とりっちゃんが気前よく立て替えていたこともあったよ」と教えてくれた。 そんな姿から、りっちゃんはいつしか“二丁目の母”と呼ばれる存在になった。 もちろん、お腹を空かせた客に振る舞われる温かい家庭料理もクインに人が集まる理由だ。 りっちゃんの夫、孝道さん(78)が作る料理はどれも美味しい。客たちは「飾らない味でどこか懐かしさがある」と口を揃える。 そして、これらの料理の値段は「この街に夢を追いかけて訪れた若者たちを応援したい」という夫婦の思いから、実に30年以上にわたって据え置かれた。 安くて美味い孝道さんの料理の味を、お金がなくて苦しかった時期の「青春の味」と記憶している人も少なくない。