17年以降「円高・株高」傾向 従来とは逆の相関関係になっているのはなぜ?
日銀が2016年7月にETFの購入増額を決定して以降、日経平均とUSD/JPYの水準のかい離がしばしば話題となりましたが、17年入り後は「円高・株高」という従来とは逆の相関関係が成立する日もあり、水準のかい離もかなり目立ってきています。散布図で確認すると、足元の日経平均が、傾向線上の日経平均の水準(1万7000円程度)よりも3000円程度上方に位置していることがわかります。 日銀のETF購入がこのかい離の一部を説明していると思われますが、株価と為替の相関が崩れた理由の一つに、日本企業の為替抵抗力向上に伴う輸出競争力の回復があるでしょう。
そこで19日に発表された5月貿易統計に目を向けると、為替・物価変動を調整した実質輸出(日銀算出)の水準が2008年1Qに記録したピークをわずか3%程度下回るに過ぎないレベルまで回復していることが注目されます。
特にグローバル経済が好転した2016年央以降の増加は目覚ましく、足元では前年比増加ペースが2桁に迫っています。2015年央から2016年央までの約1年は円高局面でしたから、日本企業の輸出競争力が削がれても不思議ではなかったのですが、足元の実質輸出を見る限り、円高の影響はほとんど表面化していないと言ってよいでしょう。
このことは、かつて日本企業のアキレス腱だった「円高→輸出競争力低下」という構図が崩れつつあるなかで、投資家が「円高→輸出競争力低下→企業収益悪化→株売り」という単純なトレードから距離を置いた結果と考えられます。2008年から12年頃までの円高局面で日本企業は為替変動への耐久力を高めるべく様々な取り組みをしてきましたが、その成果が今このような形で発現している可能性が濃厚です。為替が円高に振れているにもかかわらず、日経平均が2万円を回復するなど株価が堅調な理由として説明力があると考えられます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。