「ノーベル経済学賞」のアセモグル教授らに反論、国の経済発展をもたらすのは「政治制度」ではない
しかし、「社会資本が重要だ」と私が主張しても、読者の皆さんには、そうだろうなとは感じるがあまりピンとはこない、というのが正直なところだろう。だから、この概念は広まらないし、学問的にも、定義が広すぎ人によりさまざまであり、これも研究が発展しない理由だ。 そこで、今日は、私の考える社会資本を、具体的な一例を挙げて説明してみよう。 先日、いつものように地下鉄に乗った。そして、よく見かける光景だが、車いすの高齢者が介助者と一緒に乗っていて、駅に着くと、駅員が車いす乗降用の板を持ってきて、降車を補助した。周りの人はこれに手を貸すか、スペースを空けて協力した。このようなことがあっても、地下鉄は20秒と遅れず発車し、順調に運行が続き、私は目的地にスマホサイトの示す時間どおりに着き、約束の場所に向かった。
■「社会資本がきちんと存在している状態」とは? 社会資本がきちんと存在している社会であれば、まず、①車いすが入手可能である。②介助する人がいる。次に、③車いすの人を見かけたら、知り合いでなくとも、その場にいる周りの人々が助けてくれる。 そして、④そのニーズに気づいて、これをシステマチックに解決しようとする。⑤地下鉄の運営組織がこれに対応して、あらかじめ板などを用意する。⑥どこの車両に助けを必要とする人がいるか、その人がどこで乗降車するか、これらを認知する仕組みを作る。
⑦これを実施する担当者(ここでは地下鉄駅員)が、自分の活動をいったん脇に置いて、これを実施する。⑧この補助が、全体の地下鉄運営に悪影響を与えないようにする。あるいはある程度のロスがあっても、カバーして、持続可能なものとする。 ①から⑧までを1つひとつみていこう。まず、①が成り立たなければ、大きな困難に直面する。車いすという発明が必要だし、これを生産する技術が必要で、それを購入できる経済力も必要だ。これは、社会資本の成立には、一定水準の経済発展が必要ということだ。