ブラジルのパネトーネ事情と、2024年注目のパネトーネ
ブラジルのクリスマスシーズンの風物詩
ブラジルではクリスマスシーズンが近づくと、スーパーマーケットや食品店の店内には、季節の贈り物パネトーネの箱が山積みにされる。 この時期になると国内のメディアではパネトーネの話題が盛り上がる。今年も各メディアが先週末から今週にかけて、“今年買うべきパネトーネ”、“今年注目のパネトーネ”のランキングを発表している。 そもそもパネトーネとはイタリアのミラノ発祥の発酵食品で、主にクリスマスシーズンに消費される伝統的なお菓子だ。ブラジルへはイタリア移民が伝えた。 ブラジルで最初のパネトーネは、イタリア移民ジ・クント家が経営するパン屋「ジ・クント」が1939年に発売したものと言われている。このパネトーネは今もサンパウロ市モオカ地区にある同店(現在はパンやお菓子売り場とレストランもある)の看板商品だ。 しかしブラジル中にパネトーネを広めた一番の立役者は、1948年に創業したバウドゥッコ家だ。工業化で大量生産に成功した同家のブランド「バウドゥッコ」のおかげで、今では、ルーツがイタリアであることを知らない人もいるくらい、パネトーネはこの国の生活に根付いている。 イタリアを代表する美食メディア「ガンベロ・ロッソ」電子版は、今年の年初(2024年1月4日付)の記事で、パネトーネの世界最大の生産国はブラジルだったと伝えている。年間の生産量は約2億個とのこと。2位はペルーで、本場イタリアは3位だった(年間の生産量は5千万個)。ブラジルとペルーは、イタリアとならぶ主要生産国として君臨し続けている。 ところでパネトーネは、工業製品と、手作り製品とに、大きく区別することができる。本場イタリアでも最も多く消費されているのは“パネットーネ・インドゥストレアーネ(工業製品のパネトーネ)”だが、一方、昔ながらの製法で職人の手で作られるのが“パネットーネ・アルティジャナーレ(手作りパネトーネ)”。近年は手作りパネトーネの再評価も高まっているそうだ。 工業製品と手作り製品(この中には中小企業による製品と個人の職人の手によるものがある)との違いの大きな要因ひとつに、原材料の違いが挙げられる。 パネトーネは発酵菓子ゆえに、発酵種の管理や選択で製品の個性が大きく異なる、とても繊細な食べ物だ。 工業製品のパネトーネでは、発酵に時間がかからない酵母が使われることが多いのに対し(ビール酵母が使われるという指摘もある)、職人による手作りパネトーネでは、“リエヴィト・マードレ(天然酵母、または自家培養発酵種)”が使われ、この発酵種の管理や育て方、生地作りの過程における発酵の塩梅によって、出来が大きく異なる。つまりは、職人による手作りパネトーネでは、職人の心意気や技術によって、製品の個性が大きく異なるといえる。 また、長期にわたって販売・保存される工業製品は、防腐剤が使用されることが多いのに対し、手作りパネトーネでは使用されないとされている。 さて、ブラジルやペルーにおけるパネトーネの生産量が多いのは、圧倒的に工業製品の需要が大きいからに他ならない。 「ガンベロ・ロッソ」の記事でも、ブラジルの生産量がイタリアの4倍以上である理由は標準化された製造方法によるところが大きいという、味覚研究センターのコメントを紹介しているだけでなく、年間の生産量が7千万個を超えるというバウドゥッコ家の存在についても触れている。 しかし、そんなブラジルやペルーでも、手作りパネトーネに情熱を燃やす職人は決して少なくない。