高齢の親が投資詐欺・陰謀論にハマらないために、どうすればいいか
「高齢の親が投資詐欺に遭った」「陰謀論にハマってしまった」と悩んでいる人は多い。それは「自分だけが知っている」ということが自尊心をくすぐるとともに、単純なものの方が脳に負担をかけないからだ。高齢者も含めた医療コミュニケーションについても研究している眼科医の平松類氏が、高齢の親への接し方を解説する。(JBpress) 「どうして理解してくれないのか」と不満を募らせ、孤独を感じる高齢者が頼るものとは? ※本稿は『老いた親はなぜ部屋を片付けないのか』(平松類著、日経BP 日本経済新聞出版)より一部抜粋・再編集したものです。 ■ 自尊心をくすぐる「自分だけが知っている」 最近は高齢者を狙った投資詐欺なども巧妙になってきました。 親「そういえば、老後資金のためにいい投資先を見つけたから買っておいたよ。みんなで出資して、土地を買って建物を建てて、それを分けるっていうやつだよ。たくさん儲かるし、元本も保証されるらしい」 子「それ、どのぐらいお金を入れたの?」 親「定期預金を崩して300万ぐらいかな」 子としては頭を抱えたくなるでしょう。 新しい投資商品の話を聞いたとき、「自分だけが知っている」状態になることも自尊心をくすぐります。退職して人間関係が狭まり、周りから敬われることが少なくなった高齢者にとって、「自分だけが知っている儲け話」は、優越感を与えてくれるものなのです。 高齢者が投資詐欺にあいやすいことと似たメカニズムが、いわゆる「陰謀論」にも当てはまります。陰謀論というのは、「世界は○○が牛耳っている!」「あの大事件は○○が仕組んだものだった!」など、誰もが知る大きな出来事が何者かの策略によって起きたと決めつけるような考えのことです。久しぶりに実家に帰ったら、親が怪しい陰謀論を唱えるネット動画を熱心に見ていた、という話を聞いたこともあります。
■ 「複雑なもの」は脳に負担がかかる 陰謀論は、高齢者にとって非常に都合のよい考え方となります。なぜなら、「複雑にモノを考えないで済むので、脳に負荷を与えない」からです。そもそも高齢者は、若い人と比較すると認知能力が低くなります。認知能力が下がるというのは、物事を複雑に考えることが苦手になるということです。 現実の世の中は複雑にできています。例えば、郊外にショッピングモールが新しくできるときも、さまざまな利害関係者の中で話が持ち上がり、いろいろな業者の関与を経て出来上がっていきます。企業の株価も、いくつものファクトと多くの人たちの予測によって決まっていきます。株価が下がったときは、商品開発が悪かった、業績はあまり落ちていないが将来見込みとして市場の見方が冷ややかだった、など、複数の要因が絡み合っています。しかしそれらを理解して、その上で咀嚼するというのは脳に非常に負荷がかかる作業です。 一方、陰謀論は「○○が悪い」という1つの結論でできています。分かりやすい悪者がいて、単純なストーリーを紡いでくれます。昔話のように人に伝えやすく、伝わりやすい内容です。そのため、認知能力の低下した高齢者にも受け入れられやすいのです。 ■ 自己肯定感を求めSNSに依存する結果 投資詐欺にだまされたり、陰謀論にハマってしまった高齢者は、おせっかいにも、その新しい儲け話や「皆が知らない社会の裏側」について、家族や知人にとうとうと話したがります。喫茶店やファミリーレストランで、高齢者が「実は新しい仮想通貨が出る。この情報は私だけが持っていて、あなたも少しだけ出資できる」とか「実は○○になっているのは○○家の影響なんだよ」と話しているシーンをたびたび見かけます。 とはいえ、そういう話を周囲の人が真剣に聞いてくれるわけではありません。すると「私はこんなに素晴らしいことを知っているのに、どうして理解してくれないのか」と不満を募らせ、孤独を感じます。高齢になると、仕事もなくなり、子どもも巣立って、人から頼られることが減ります。そのため、些細なことでも孤独感が増しやすいのです。 そこで登場するのが、近年高齢者がハマりだしているSNSです。昔は、SNSというのは若い人がやるものでした。しかし、スマートフォンの普及やコロナによる社会不安などをきっかけに、SNSを始める高齢者が増えています。私が毎日目の健康について発信しているYouTubeチャンネル「眼科医平松類」の、最も多い視聴者層は65歳以上です。