常に満室経営の「アパートオーナー」…「税務署」から突然狙われたワケ【税理士が解説】
なぜAさんは税務署から狙われたのか?
一般的に、多額のお金が動いたときや所得の変動が激しいときには、「お尋ね」文書の送付や税務調査の通知が来ることが多いようです。 個人のアパートオーナーの場合、家賃収入から必要経費を控除した儲けに該当する不動産所得を確定申告しますが、たいていの場合、収入が安定的であれば不動産所得も安定的に発生することになります。 特に、物件の満室が続いている、あるいは、家賃相場が上昇しているなどの理由により、家賃収入が安定して高い状況の場合、不動産所得も高い水準を維持することになります。そんななか、ある年の確定申告書で、家賃収入が下がっていないのにも関わらず不動産所得が急に小さくなったとしたら、「節税対策」のために「例年にない多額の必要経費が計上されたのではないか」と税務署に注目される可能性があるわけです。 今回の事例では、「大規模修繕」の全額が修繕費として必要経費に計上されていたことから、不動産所得が著しく変動しました。そして、一般的に修繕費とよばれる支出は、必ずしもすべてが税務上の必要経費として認められるわけではありません。 資産に対して行われた工事等に係る支出のうち、資産価値を高める部分や使用可能期間を延長させる部分の支出は「資本的支出」と呼ばれ、「修繕費」と区別して取り扱われます。 資本的支出は、支出した金額を取得価額とする固定資産を新たに取得したものとして扱われるため、通常は支出した年に全額を経費計上することができません。そのため、資本的支出が該当する固定資産の種別に応じた耐用年数にわたり、減価償却を通じて必要経費に計上することになります。 なお、今回の事例は架空のケースですが、不動産貸付業を営む個人が、賃貸用マンションの設備をシステムキッチンとユニットバスに取り換えた工事費用を修繕費に計上して申告したところ、当該工事費用は修繕費ではなく資本的支出に該当し、「建物」として計上すべきとされた事例があります(国税不服審判所平成26年4月21日裁決)。