どんな機器でも「快適な表示」を目指す。XREALの新デバイス「XREAL One」とはなにか
XREALが新型のサングラス型ディスプレイ「XREAL One」を発売する。価格は6万9,980円。予約は本日15時から開始。出荷は2025年1月中旬を予定している。 【この記事に関する別の画像を見る】 なお、XREAL Oneと充電などに便利なアダプター「XREAL Hub」のセットも、7万2,960円(税込)で販売される。 同社はこの種の製品のリーディングカンパニーであり、積極的な製品開発で知られている。 新製品を短時間だが実際に試すことができたので、その概要をお伝えしたい。 また、同社の創業者でCEOのチー・シュー氏にも、新製品の開発思想などについて単独インタビューを行なっている。そこでのコメントも合わせてお伝えしたい。 ■ 3DoF含め大幅に機能アップ XREAL Oneがなにか、どこが改善されたかを知るには、同社の主力製品である「XREAL Air」が、どんな製品かを知っておく必要がある。 同社は2022年、コンシューマ向けの「Nreal Air」を発売しした。その後2023年にNrealから「XREAL」にリブランド、同年に「XREAL Air 2」と「XREAL Air 2 Pro」を発売、2024年に入り、さらにハイエンド製品である「XREAL Air 2 Ultra」を発売している。主軸はどれも同じ「XREAL Air」世代のハードウエアだ。 XREAL Airは、比較的シンプルなサングラス型ディスプレイである。視野角は46度。片目それぞれにソニーセミコンダクターソリューションズ製のマイクロOLED(解像度1,920×1,080ドット)を組み込んでいる。 シンプルな構造だが、画質は良好。コストパフォーマンスも悪くない。リファインしたXREAL Air 2世代でも性質は大きく変わっていない。 冒頭で述べたように、XREAL Oneは、XREAL Airから完全なリニューアルを果たした「次世代のサングラス型ディスプレイ」と言える。 変更点は複数ある。 ディスプレイは、0.68型のソニーセミコンダクター製のマイクロOLEDを搭載している。輝度が最大600nitsになり、画質も若干向上しているという。詳しくは後ほど述べるが、視野角も46度から50度へと拡大している。 【お詫びと訂正】記事初出時、マイクロOLEDのサイズを“0.55型”と記載しておりましたが0.68型の誤りでした。お詫びして訂正します。(12月11日15時) 視力補正はインサートレンズ方式。XREAL Air系とは、インサートレンズ用のホルダーが変更になった。鼻当てはサイズなどが簡単に変更できるものになっている。 スピーカーは大きく設計変更され、BOSEとの協業で開発されたものになる。音質はかなり向上していそうだ。 最大の違いは「単体で3DoF表示に対応した」点だ。XREAL Airは基本的に0DoFの製品だったが、そこが大きく変わる。 ……といっても分かりにくいので、図を使って説明しよう。 DoFとは「Degrees of Freedom(自由度)」の略。VRなどのヘッドマウントディスプレイではよく使われる表現である。 映像が動きにどれだけ追従するか、ということを表したものだが、一般的には「0DoF」「3DoF」「6DoF」の3つがある。 0DoFとは、「映像が必ず自分の顔の正面についてくる」もののこと。 以下の画像はその模式図だ。水色の四角錐が視界だとおもってもらえばいい。視界の真ん中に映像があり、首を動かしても「同じ位置に映像がついてくる」のが0DoFだ。要は「中央に表示されっぱなし」ということである。 それに対して3DoFは以下のようなイメージ。 自分の首を中心とした球のある位置に画像が表示され、首を動かすと「見える場所が変わる」と考えればいいだろうか。 どちらが自然かと言えば、当然後者だ。 これは特に「視界から見切れるような巨大なディスプレイ」として使うときに影響してくる。ずっと正面に表示がある0DoFだと、表示に使うディスプレイサイズ以上の大きさにはならないが、3DoFだと、「見る方向を変えると、その部分にあるはずのものが見える」ので、大きな画面に見える。 XREAL Airは、本体だけでは0DoFであるため、「中央の視野46度に1,920×1,080ドットの画面が見える」形だった。 3DoFにするには、AndroidスマホやPC、Macに「Nebula」という専用アプリを入れるか、「XREAL Beam」「XREAL Beam Pro」などの周辺機器を使う必要があって、手軽とは言えなかった。 しかしXREAL Oneでは、本体だけで非常に高精度な3DoFを実現できる。 実際に使ってみると、体験の違いは明白だ。 PCやMacにつなぐと、その画面がそのまま空中に大きく表示される。特にワイド画面にすると効果が大きい。首を左右に動かすと、その方向にちゃんと「大きなディスプレイの見えていなかった部分」が見えてくる。 サイズ感や自分からの距離感などは、XREAL One側のメニューで変更可能になっており、PCなどの設定を変える必要がない。 デモではPCでの一般的な操作だけでなくゲームも体験できた。ウルトラワイドの表示だったのだが、画面の両端を見ようと首を動かしても自然に素早く表示がついてくる。だから没入感が高い。 XREAL Oneは、視野角が46度から50度に広がっている。海外で発表済みの上位バージョン「XREAL One Pro」ではさらに57度まで広がった、とされる。 表示される映像の視野角の広さは、ARなどの用途を考える上ではとても重要なことだ。また、3DoFで大きな画面を見るなら、視野角は同時に重要になる。 前掲の画像で言えば、水色の四角錐の広さが視野角に当たる。広ければ広いほど「現実世界で広いディスプレイを見た時」の感覚に近くなり、自然になる。 50度という視野はまだ狭い。 ただ、ちょっと自分でも意外だったのだが、背景の透過をオフにしてPCのワイド画面を表示すると、明らかにXREAL Air系より体験が良かった。他のサングラス型ディスプレイでの体験よりも良い。画面が広いMeta Quest 3やVision Proでの体験より良い……とは言えないが、かなり迫ってきた印象だ。 ■ 遅延の低減で快適さが大幅アップ これまでも別売の機器を使うことで3DoF自体は実現できた。また、50度という視野角も劇的に広くなったわけではない。 なのになぜ快適になったと感じるかと言えば、「表示遅延が劇的に短くなった」からだ。 XREAL Oneでは、首の動きに追従した映像の書き換え速度が劇的に速くなっている。 この種のスペックをVR関連業界では「Motion to Photon」(動きから光、すなわち表示までの時間)という単位で表したりするのだが、XREAL Oneでは、これが「3ミリ秒」になっている。 ゲームやテレビで出てくる「60fps」が約16ミリ秒、「120fps」が8ミリ秒だから、これはかなり小さな数字だ。 といっても、単純に並列に扱えるか……というとそうでもない。 この値はまさに、「サングラス型ディスプレイ」というXREAL Oneの特性に合わせた変化だからだ。 従来、3DoFでの表示には外部機器が必須だった。その場合、処理は「XREAL Airのモーションセンサーで顔の向きを把握」し、そのデータをPCやスマホなどの外部機器に渡し、処理を行って表示をXREAL Airに返す……というループが必要になる。結果として、表示遅延は長くなる。 だがXREAL Oneは、3DoFの処理を「XREAL One自身」で行なうことにした。内部に新開発の「XREAL X1」というチップを搭載し、モーションセンサーでの位置把握と表示位置合わせを内部で完結。外部機器からの映像だけを使うことで、動きへの追従性を劇的に高めている。 しかも、3DoFをXREAL Oneだけで実現するということは、Display Port Altモードで接続できるデバイスであれば、どんな機器からの映像でも3DoFで見られる、ということだ。また、機器側の処理負担も小さいものになる。 ■ より良い製品のためにオリジナルチップ「X1」を開発 シューCEOは、プレゼンテーションしながら筆者に、次のように語った。 シューCEO(以下敬称略):弊社は、Apple Vision Proと比較しても、使いやすいものを作りたいと考えています。しかも、PCでもMacでも、AndroidでもiPhoneでも、ゲーム機でもつながるものを、です。最新のディスプレイを使い、視野も50度まで広げました。 我々はこの製品を、「すべての人にとっての空間ディスプレイ」だと考えています。 ――今回、独自のチップを内蔵したことの意味は大きいですね。 シュー:はい、以前は独自のソフトウエアを各機器にインストールする必要がありましたが、それは不要になります。「XREAL Beam Pro」のような周辺機器も、付加価値を広げるには必要なものですが、どんな機器でも接続できるよう、チップを内蔵してしまった方が良いという判断を下しました。それぞれのソフトに開発リソースを割くよりも、XREAL Oneの開発にリソースを集中した方が良い、と考えたんです。 Vision Proは「R1」という独自のコンパニオンチップを内蔵しています。弊社がXREAL X1を開発したのも同じ理由です。内部で処理した方が遅延は小さくなり、外の機器で必要となるワークロードも小さくなります。知覚に大きく影響を与えるものは、できる限り機器の中に入れていきます。 ――X1はどんなプロセッサーなのですか? 消費電力の影響は? シュー:TSMCで生産した12nm世代のプロセスを使っていますが、これが実際のチップです。さらに今後は、モデルを更新するごとに新しい世代の半導体プロセスを使っていきますから、消費電力と処理能力の両面で有利になっていくでしょう。 現状でも、消費電力は十分に低いです。以前は安価な複数のチップを複数使っていたため、相応に電力を消費していました。しかし今回は、X1が複数の役割を果たすので機能はより多彩になり、消費電力も下がっています。 ――とはいえ、独自チップの開発にはコストがかかるものです。 シュー:確かに。 でも、作らねばならなかったんですよ。 本当にパイオニアになりたいのであれば、本当にイノベーターになりたいのであれば、限界を押し広げていくことが必要です。ならば、自分たちオリジナルのチップが必要になります。 NIO(蔚来汽車、中国のEVメーカー)創業者のリービン(李斌)氏と話した時のことを思い出します。投資を依頼するため、我々の製品をかけてもらったんです。 すると、彼はまずこう言いました。 「あなたは、独自のチップを作らなければならない」 確かに、その先にあるのは我々がやりたいことであり、そのためにも投資を募っていました。あれはもう3年以上前のことですが、実現できたことに興奮しています。 ――いい話ですね。 シュー:最初のARグラスを試作していた2018年には、我々は小さな会社でした。自分たちでチップを設計するリソースを持てるなんて考えもしませんでしたよ。でも、それが今は完成した。 私たちはとても恵まれています。好きなことをやって、境界線を押し続けて、ついにオリジナルチップまで手に入れたのですから。 ■ 狙うはあくまで「低価格で多数普及する製品」 XREAL Oneは3DoF対応になったわけだが、Meta QuestやApple Vision Proなどの一般的なVR用HMDは「6DoF」だ。3DoFは自分の頭を中心とした方向が自由になるが、6DoFでは自由に空間を移動できるようになる。 実はNreal LightやXREAL Air 2 Ultraは、カメラによる位置認識で「6DoF」に対応している。そういう意味では、XREAL Air 2 UltraとXREAL Oneではまだ狙いが違う、ということになる。 同社最初の製品である「Nreal Light」は、「カメラ+スマホ連携による6DoFを使ったARアプリ開発プラットフォーム」であり、XREAL Airよりもさらに本格的なARを志向したものだった。 ただし、ARアプリへの理解が進んでおらず、本格的な利用拡大を目指すには時期尚早なところがあったという。 そこでまずは「シンプルな製品」へ方向転換して生まれたのが「XREAL(Nreal)Air」である。 このあたりの経緯については、今年1月に掲載したシューCEOへのインタビューで詳しく解説している。 彼の狙いはあたり、XREAL Airシリーズは大ヒットした。まだ数百万台規模とはいえ、この種の製品は市場で認知され、同様の製品を開発するフォロワー・ライバル企業も増えている。 では、今後「6DoF」路線はどうするのだろうか? シュー:私たちは2つの異なる種類の製品ビジョンを持っています。 1つは、空間ディスプレイと呼ばれるもの。XREAL Oneのように、簡単に使えて普遍的な互換性を持っているものです。 そしてもう1つが「空間コンピューティング」。手の認識や6DoFなど、すべての機能を搭載したものです。そういう製品群も、将来的には拡大するでしょう。 私たちにとって最も重要なことは、空間コンピューティングをより手頃な価格で実現することです。Vision Proのような価格帯(3,500ドル)では、大量に普及する未来が見えてきません。 私たちが考えているのは、Vision Proの80%の機能を提供するものを、重量・価格帯の面で20%の範囲で実現することです。 大手企業も低価格で機能の少ないものに移行し始めています。 私はこの(サングラス型ディスプレイという)フォームファクターを強く信じていますし、そして、他の企業も徐々にこの方向性を掴んできていると感じています。 なお、中でも触れたように、今回日本向けに説明されたのは視野角50度の「XREAL One」のみ。ただし海外では、視野角57度を実現した「XREAL One Pro」も発表されている。こちらがどうなるのかは、追って詳細が発表されるのだろう。個人的にはProの方が気になる。 さらにもう1つ、XREAL Oneには秘密がある。 眉間の部分には謎のコネクターがあり、ここに「XREAL Eye」というカメラが取り付けられるようになっている。製品写真や今回の体験写真にも、コネクター部の「秘密」は映り込んでいる。 だが、このカメラでなにをするのか、どんなことができるのかなどの詳細は「またこの次に」(シューCEO)として、明かされなかった。 来年1月のCESには、XREALも出展を予定している。そこでまたインタビューをする約束をしているので、詳細をお楽しみに。
AV Watch,西田 宗千佳