マルクス主義の「闘争」「革命」を巧みに“利用” 毛沢東の人物像を紐解くと分かる中国「習近平一強体制」の行方
異例の3期目に突入した習近平・中国国家主席。就任以来、「共産党支配」を日増しに強めてきた。そのロールモデルとなっているのが、建国の立役者である「毛沢東」だ。中国の歴史や文化、社会に精通する社会学者の橋爪大三郎氏と、元朝日新聞北京特派員のジャーナリストでキヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏が、「毛沢東の本性」について分析・考察する(共著『あぶない中国共産党』より一部抜粋、再構成)。【第3回。文中一部敬称略】 【写真】「インテリ嫌い」だった毛沢東
橋爪:いまの中国をまるごと理解する。それには中国共産党とその歴史を、その裏側を含めて明らかにすることが不可欠です。そのためにはまず、毛沢東の正体をつきとめる。中国共産党を率いて中華人民共和国を打ち立てた立役者、そして死ぬまで独裁的な権力を手放さなかった特異な人物、毛沢東の本性をつきとめるのがよい。 峯村:習近平政権が、これまでどのような方法・目的で権力基盤を固めてきて、これから中国をどこへ導くのかを考えるうえでも、毛沢東の分析が不可欠です。習近平は2018年、それまで「2期10年」という国家主席の任期を撤廃する憲法改正に踏み切りました。この任期はもともと、鄧小平が1982年に「毛沢東の独裁がもたらした過ちを繰り返さない」ために設けたものです。これを習近平があえて撤廃したことは、毛沢東式の独裁体制への回帰につながります。 のみならず、習近平は2021年、毛沢東、鄧小平に続く三人目となる「歴史決議」を採択して、結党以来100年の政治路線や思想をふり返り、「習近平新時代」の始まりを宣言しました。このことは、新中国を建国した毛沢東、そして改革開放によって国を発展させた鄧小平という二人の「偉大な指導者」に習近平が並んだことを意味します。 3期目で習近平一強体制が固まったこのタイミングで、中国共産党の黎明期における国家運営とはどのようなものか、そもそも毛沢東とはどんな人物だったのかを改めて整理・検証する意義は大きいと思います。
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