トヨタ・マツダ・スバル・日産・ホンダ…メーカー5社がクルマ作り磨き合う〝実験室〟の正体
国内自動車メーカー5社が耐久レースの場を車開発の“実験室”と位置付けた取り組みを進めている。車の安全や走行性能を磨き、人材育成を進める上でレースが最適な場と捉える。各社は車両の耐久性や性能を競いつつ、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応ではタッグを組む。車づくりにかける思いは各社共通。「共に挑む」と書く「共挑(きょうちょう)」をスローガンに、理想の車づくりを追い求める。(名古屋・川口拓洋) 【写真】耐久レースに参加する各メーカーのスポーツカー 耐久レースのうち「ST―Q」と呼ばれるクラスが共挑の舞台だ。同クラスは2021年に創設。レースの厳しい環境下で開発中の車を走行できる。22年にトヨタ自動車とマツダ、SUBARU(スバル)の3社がガソリンの代替となるCN燃料を利用した車の走行実証実験を始めた。同年内に日産自動車が合流し、翌23年からホンダも参戦した。 「レースの場が(車開発の)実験室として広がってきている」と共挑活動に手応えを示すのは、トヨタGRカンパニーの高橋智也プレジデントだ。「メーカー各社がレースの場で車を開発するのが当たり前になってきた」と続ける。 ホンダ・レーシング四輪レース部レース運営室の桒田哲宏室長も「レースを実験室として位置付けてきた」と強調する。ホンダは1964年にフォーミュラワン(F1)に初参戦し、2024年は60周年の節目。「ホンダにとってモータースポーツはなくてはならないもの」と桒田室長は意義を説明する。日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)の石川裕造常務執行役員も「ST―Qクラスはレースをしながら開発できる良いクラス」と率直な感想を語る。 エンジニアらの人材育成について言及するのはスバルの藤貫哲郎取締役専務執行役員だ。通常の車開発はある目標値を設定し、その値に性能を近づけることが多いが、藤貫取締役専務執行役員は「競争の中でこそ良い技術が出る」と強調。「エンジニアは本来負けず嫌いだが、行儀良く会社の中で爪を隠していた。これではいけない。(レースは)人材発掘の面でも効果があった」(藤貫取締役専務執行役員)という。 マツダの前田育男エグゼクティブフェローも同様に「(レースでは)エンジニアの目つきが変わる。常に状況が変化するため、引き出しがないと対処できない」と話す。 共挑の主要テーマとなるのがCN燃料の利活用。NMCの石川常務執行役員は「燃料自体も改良しており、良くなってきた」と進化を実感。スバルの藤貫取締役専務執行役員は各社でCN燃料のデータ共有を進めているとした上で「多くのデータが短時間で得られる」と利点を説く。トヨタの高橋プレジデントは「CN燃料を“当たり前”の燃料に変えていけるか。一緒に未来をつくる」と前を向く。 本来は競合する各社だが、スーツを脱ぎレース場という空間に一度入れば自由に意見交換をする。ある自動車メーカー関係者は共挑について「少年漫画のような魅力がある」と表現する。炭素という強力な“敵”に立ち向かうため、ライバルと手を組む点が類似する。 耐久レースを運営するスーパー耐久未来機構(STMO)の理事長で、ドライバー「モリゾウ」ことトヨタの豊田章男会長も「1社1社競争することも大事だが、ある程度手を握っていくことも大事。日本の自動車産業を強くする上で必要だ」と5社の共挑に期待を寄せる。