「ウォール街で最も憎まれる男」、トランプが商務長官に指名したハワード・ルトニックとは何者か
トランプ次期米大統領は、商務長官に投資銀行キャンターフィッツジェラルドのハワード・ルトニックCEOを起用すると表明した。 現在63歳のルトニックは、2001年9月11日の同時多発テロで、自身の弟を含む同社の従業員658人を失ったことで知られており、壊滅的な打撃を受けた同社の再建を果たした彼は、米国で最も尊敬されるCEOの1人に選ばれても不思議ではないはずだ。しかし、彼にはさまざまな悪評がつきまとっており、「ウォール街で最も憎まれている男」とも呼ばれている。 ルトニックは、今年7月にテネシー州ナッシュビルで開催された暗号資産のカンファレンス『ビットコイン2024』に登壇した。そこには、この日の演説で「戦略的な国家ビットコイン備蓄」の立ち上げを約束したトランプをはじめ、ヴィヴェック・ラマスワミやロバート・ケネディ・ジュニアなどのMAGA(米国を再び偉大に)帝国の重鎮らを含む数千人の暗号資産の支持者らが集まっていた。 ルトニックは、約20分間の講演で米ドルに連動するステーブルコインのテザーを擁護し、ビットコインの投資家にレバレッジを提供するための20億ドル(約3030億円)規模の融資事業の立ち上げを発表した。しかし、この講演の最初に彼は、広く知られた自身の物語について語った。 2001年9月11日に、世界貿易センタービルにテロリストがハイジャックした旅客機が激突したときに、彼は長男を入園初日の幼稚園に送り届けるところだった。彼がCEOを務めるキャンターフィッツジェラルドは、同ビルの101階から105階に本社を置いており、658人の従業員すべてが死亡し、その中にはルトニックの弟や親友らも含まれていた。 ルトニックは、この悲劇にめげず、失意の中で犠牲者の遺族を支援することを決意した。彼は、その後の5年間で会社の利益の25%を遺族に寄付すると約束し、最終的に1億8000万ドル(約273億円)を支払った。 それから23年が経過した今年、トランプはルトニックを商務長官に指名すると発表した際に、ルトニックを「言葉では表現できない悲劇に直面したときのレジリエンス(回復力)を具現化した人物」と呼んだ。 それは真実であり、間違いなく人々の心を打つ話だ。しかし、ルトニックの人柄にはダークな側面があることが、裁判資料や人々の証言で明らかになっている。彼と彼の会社は長年にわたり、人々から金を搾り取ってきたと非難されている。 ■トランプへの忠誠心 保有資産が15億ドル(約2270億円)を超えるルトニックは、パートナーの報酬を削って自分自身に王様のような給料を支払っていると関係筋は述べている。昨年、連邦裁判所に提出された訴状によると、ルトニックは、従業員やパートナーに現金の代わりに会社の将来的な利益に対する金銭的インセンティブとしてパートナーシップの持分を与えると約束していたが、実際はその支払いを渋っており、退職後に全額を受け取らなかった元パートナーは約40%に上ったとされていた。